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MSTRN8 を用いた一次元放射対流平衡
〜暴走温室限界の計算〜

はしもとじょーじ(東大・気候システム)
2002 年 8 月 26 日
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目次

GCM による暴走温室計算: 2000 日計算
太陽定数を現在の地球の 1.1 倍にすると温度が平衡に達しない
  • CCSR/NIES AGCM5.?
  • T21L? 全球水惑星(50m 混合層海洋)


平衡解が求まらない → 暴走温室効果?

  • 暴走温室効果
    …温室効果によって温度が際限無く上昇.

問題意識: 暴走温室はどこで始まるのか?

  • 放射コードの性質によって決まる
  • 一次元放射対流平衡モデルで調べる



一次元放射対流平衡モデル



一次元放射対流平衡モデルの問題点と対応策

  • 雲量が計算できない
    … 地面のアルベドを変える
  • 水蒸気の存在量が計算できない
    … 対流圏は相対湿度一定, 成層圏は圏界面の混合比で一定
  • 対流層の温度勾配
    … 段熱温度勾配 or なんらかの勾配を仮定



モデル(MSTRN8) の計算手順
  • 放射コードは CCSR/NIES AGCM に組み込まれているものを用いる


コントロール実験: 現在の地球条件
(相対湿度 0.5, 地面アルベド 0.27)

US 標準大気 (1976, 中緯度) と比べると…
  • 圏界面温度が低い: 成層圏の水蒸気量が大きい
  • 上部対流圏の温度勾配が大きい: 相対湿度を固定したため. 現実では対流圏下層で 0.8, 上層では 0.2-0.3.


コントロール実験: 温暖化実験
Manabe & Strickler (1964) の再現実験
  • CO2 倍増で 2 K 程度昇温
  • 水蒸気の相対湿度の感度大


超温室効果の実験:
地表温度を与えて OLR を計算する.

  • 地表温度に比例して OLR も増大する. 観測とは矛盾する結果.



暴走温室効果の定義とメカニズム

  • 暴走温室状態 … 平衡状態で海洋が存在しない(温度が上昇し続ける).
  • 暴走温室効果 … 大気が射出できる放射には限界がある. 限界を越えたエネルギーが入射すると, 温度が上がり続ける.
  • 良くある誤解 … 力学的な不安定のこと.



灰色大気の暴走温室計算 (Nakajima, et al., 1992)
  • 射出限界が存在する


射出限界の分類と存在理由
  • 成層圏が規定する限界 (Komabayashi-Ingersoll 限界):
    • 圏界面の温度によって決まる圏界面水蒸気量
    • 大気上端の射出量と放射平衡から決まる圏界面水蒸気量
    両者が一致する所が射出限界となる.
  • 温度勾配が規定する限界 (Nakajima et al., 1992):


MSTRN8 の射出限界
大気組成は窒素, 水蒸気のみ
  • 射出限界は灰色大気の場合にくらべ小さくなる.
  • 観測される全球平均 OLR は 240 W/m2
  • 熱帯の平均 OLR は相対湿度 1.0 の場合の射出限界に近い


暴走するかしないか?
太陽定数 1.1 倍, アルベド 0.29 の場合の入射太陽放射フラックス
  • 熱帯は射出限界を超えている, 極域は射出限界以下.
  • 全球で暴走状態になるかどうかは南北熱輸送能力が決める.


暴走の始まる条件

入射太陽放射 > 射出限界 なら暴走.

  • 現在の地球条件では暴走しない
  • 現在の金星条件でも暴走しない


まとめ


Nakajima, et al. (1992) の計算結果
灰色大気における射出限界


参考文献
  • Hallberg, R., and A. Inamdar, 1993: Observations of seasonal variations in atmospheric greenhouse trapping and its enhancement at high sea surface temperature. J. Climate, 6, 2049-2062.
  • Ingersoll, A. P., 1969: The runaway greenhouse: A history of water on Venus. J. Atmos. Sci., 26, 1191-1198.
  • Komabayashi, M., 1967: Discrete equilibrium temperatures of a hypothetical planet with the atmosphere and the hydrosphere of one component-two phase system under constant solar radiation. J. Meteor. Soc. Japan, 45, 137-139.
  • Komabayashi, M., 1968: Conditions for the coexistence of the atmosphere and the oceans. Shizen, 23, No. 2, 24-31 (in Japanese).
  • Manabe, S., and R. F. Strickler, 1964: Thermal equilibrium of the atmosphere with a convective adjustment. J. Atmos. Sci., 21, 361-385.
  • Nakajima, S., Y.-Y. Hayashi and Y. Abe, 1992: A study on the 'runaway greenhouse effect' with a one-dimensional radiative-convective equilibrium model. J. Atmos. Sci., 49, 2256-2266.
  • Raval, A. and V. Ramanathan, 1989: Observational determination of the greenhouse effect. Nature, 342, 758-761.
  • Nakajima, T., M. Tsukamoto, Y. Tsushima, A. Numaguti, and T. Kimura, 2000: Modeling of the radiative process in an atmospheric general circulation model. Appl. Opt., 39, 4869-4878.


Odaka Masatsugu & Sasaki Youhei 2002-09-09