傾圧不安定


ガラスは熱の良導体?

当然ながらガラスは金属ほど熱をよく伝えない. でも, 化学実験で液体を熱する時はビーカーなんかを使うんだから.. と思って, ビーカーを輪切りにして水槽の外壁に使ったのだが, やっぱりガラスの熱伝導率は金属に比べて2桁以上悪い. 後で計算してみると, 厚さ3mm程度のガラスの内側と外側で3度程度の温度差が できる計算になる. 「だから昔の人は水槽をガラスで作って横から見ようなんて思わ なかったんだ」と妙に納得してしまった.

しかし, パイレックスガラスなら 作業流体の水よりは倍ぐらい熱伝導度がいいので, 1mm 程度の「動かない境界層」があると思えば, それほど大きな影響はない, と言えそうな気もするし, 実際のところ, このことが実験になんらかの悪影響を 及ぼしているようには見えないので, とりあえずは「結果オーライ」である.

金属棒の中は温度一様 ?

金属なら熱伝導度は格段にいいので, 中心部のアルミの丸棒の中の温度は一様と仮定してよかろう, と思ったのであるが, どっこい, ここでも数度の温度降下は 避けられない. 狭い場所で数十Wの熱量を流すのは結構難しい.

地球科学はやっぱり体力 ?

ビデオに記録したナイロンボールの軌跡から, 3次元的な位置を割り出すにはその座標を読み取らなくてはいけない. 機械的な画像処理によりそれができればカッコいいのだが, この実験をした1985年当時そんな機械はとても手が出なかった. そこで, 大きなビデオモニターに座標軸の目盛りを書いて, 人間の目で読み取る事にした. ところが, まだビデオデッキがようやく家庭に普及し始めた頃で, テープを静止させると画像が揺れて読み取れない. 結局, 通常の再生速度で読み取るため, 各座標に読み取係と記録係を一人ずつと時計係を一人 (合計7人) おいて, 時計係の合図で3つの座標を3人が一斉に読み取り, 決められた順番に声をあげて記録係に伝えることにした. この方法で訓練を積んだ結果, サンプリング間隔を2秒まで縮小することに成功した. まさに人海戦術の勝利であった.

もっと光を !

液晶カプセルで実験を始めた当初は, スリット光の光源として スライドプロジェクタを使用していたのだが, どうも液晶の色を鮮やかに撮影することができず悩んでいた. 液晶の量が少ないと色が薄いし, 多くすると今度は流体全体が白濁してしまい, かえってコントラストが悪くなる.

白濁するのはきっとカプセルの素材が樹脂で作業流体の水と 屈折率が異なるからだろう. ならば, 流体の方の屈折率をカプセルにあわせてやれば, きれいに見えるに違いない. などと四苦八苦していた頃, 液晶カプセルで可視化した実にきれいな 写真を発見した. 早速, 面識もない著者 (木本日出夫氏:大阪大学) に いきなり電話したところ, 電話の向うから「いや, 簡単に見えますよ」という答えが返ってきた. 話を聞くと私の実験との違いは光源くらいしかない. 光の強さだけでそんなに変わるかなぁと 半信半疑で光源のメーカーからデモ機を借りて実験したところ, なんと実にきれいに見える.

学生:「一体, 今までの苦労はなんだったんでしょう?」
私: 「いや, まあ... 実験なんてこんなもんだ. 君たちもいい経験をしたね.」