Fluid Dynamics in Earth and Planetary Sciences (FDEPS) First FDEPS Workshop Dec 6 - 10, 1999 Graduate School of Mathematical Sciences, University of Tokyo
要旨
地下数十kmで岩石が部分的に溶け,液体部分が絞り出され,マグマとなる.このマグ マが上昇して地表に出る過程が噴火現象である.マグマは噴火する前に地殻内部の 「マグマ溜まり」で一時的に滞留することがある.そこでの冷却・結晶化や周囲の岩 石との相互作用,上昇途中の発泡によって,マグマの物性や物理化学的性質は変化す る.このような気相,液相,固相の混合物の流動現象こそが火山現象の本質である. このことに加え,火山現象には,マグマが1万気圧の高圧下から地表まで上昇するこ と,マグマが高温であること,などの特徴があり,それゆえに他の地球惑星科学には みられない独特の流体力学的問題を含む.例えば,噴火現象においては,地下でマグ マの上昇する途中で減圧することによってマグマ中に溶け込んだ揮発成分が発泡し, 気相が膨張することが運動様式を決定する重要な要因となる.地表に出てからは,高 温のマグマの破片が大気に熱を与え大気が膨張することが,噴火の爆発的な様相を決 定している.
モデリングの目的は対象とする自然現象を抽象化することによって,その現象の本質 をとらえることである.抽象化の仕方は自由であるが,自由だからといって,何をし てもよいというわけではない.モデルの正当性は,微分方程式の解など,何らかのア ルゴリズムによるアウトプットと自然界での観測事実が「一致する」という事実に よってのみ実証される.現象とモデルの双方に何らかの意味で共通する再現性がなけ ればモデルを立てても実証できない.火山現象のモデリングする際には,そのモデル が物理的に筋の通ったものであるあるかどうかだけではなく,観測事実とどのような 比較が可能なのかということが問題となる.モデルと観測の再現性という観点から, 火山現象のモデルをいくつかのタイプに分類することができる.
高層大気中での火山噴煙の拡大運動などは流体力学の方程式(ナビエ-ストークスの 式)で記述される.具体的には密度成層流体中での重力流の一種という形でモデルが 定式化できる.モデルの予測は人工衛星画像などの観測データによって直接実証され る.
噴火タイプは定性的に,溶岩流タイプ,火砕流タイプ,噴煙タイプという3種類に分 類される.このことは,マグマの上昇運動や噴出様式を記述する力学系が,それぞれ の噴火タイプに対応する漸近安定な不動点をもつことに対応する.具体的には,マグ マの上昇運動や噴煙の大気中での上昇運動に対する流体方程式の漸近安定な定常解の 性質を検討することによって,「実現し易い噴火様式」の性質を調べることができ る.
現象の背後に不安定な力学系が存在する場合,または,本質的にストカスティックな 過程を含む場合には,個々の事象について予測性をもつモデルを作ることは本質的に 困難である.この場合,いわば,再現性がないという事実が再現性をもつことにな る.一般に不安定な力学系に対しては,軌道そのものに対する予測性を失うことと引 き換えに,粗視化したレベルで漸近安定な統計的性質を持つことが期待される.この 漸近安定な統計的性質を予測するように定式化することによって,観測によって実証 可能なモデルを立てることができる.火山噴火を例にとると,噴火の規模と発生頻度 の関係については,個々の噴火について予測することが難しいが,統計的な漸近的性 質を単純な確率モデルで再現できる可能性がある.
火山現象モデリングの目指すところは,火山現象の観測事実から発見的に得られたパ ターンが何らか数理的パターンと一致していることを示すことによって,未だ観測し ていない現象を予測することである.上記の例では,モデルの性質が現象を支配して いる力学系の性質に密接に関連していることが見て取れる. (1)と(2)の問題につい ては,観測との比較の対象が流体方程式の数理的パターンそのものである場合が多 く,その意味で火山現象のモデリングと流体力学の関係は深い.先にも述べたよう に,火山現象はある意味で特殊な自然現象であり,そのために用いる方程式も特殊な 近似が施されている場合が多い.その特殊さゆえ,他の現象からは知ることのできな かった流体方程式の数理的本質を照らすことがあれば,火山学と流体力学の間に研究 対象の新天地が生まれないとも限らない.