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惑星の気象学


暴走温室効果

図19: 鉛直一次元放射対流平衡大気モデルによる計算結果. 地表面温度与えた場合の大気上端から射出される赤外放射の図. 青線の太陽放射を与えた場合にはエネルギー的につりあう地表面温度が存在する. しかし赤線よりも大きい太陽放射を与えた場合には, エネルギー的につりあう地表面温度は存在しなくなる [Nakajima et al. (1992) の再計算結果].
 

金星にはかつて地球と同程度の量の水が海として存在したと考えられている. しかし地球よりも太陽に近い軌道上に位置しているという条件のために温室効果が地球よりも強く働き, その結果海は完全に蒸発してしまったと考えられている.

なぜこのようなことが起こるのかを, 比較的簡単な大気モデルの計算結果を用いて説明しよう. 図 19 は Nakajima et al. (1992) の鉛直一次元放射対流平衡大気モデルを用いて, 様々な地表面温度に対する大気から射出される赤外放射を計算したものである. このとき大気は水蒸気とそれ以外の 2 成分で構成されるとし, 対流圏では水蒸気は飽和, 成層圏では混合比一定としている.

この図からわかることは大気から射出される赤外放射にはある上限値があることである (図では 355 W/m2 前後). これは大気の射出限界と呼ばれている. もし太陽からうけとる日射のエネルギーがこれよりも大きい場合, 大気はエネルギー的につりあうことができず, その結果, 地表面温度は次第に上昇すると予想される. このような太陽放射と赤外放射のつりあいがとれない状態を 暴走温室状態 と呼んでいる.

金星大気の場合, 惑星形成後のある時点で太陽放射のエネルギーが射出限界を超え, 暴走温室状態になってしまったと考えられる. 一旦暴走温室状態になってしまうと地表面温度は海洋が完全に蒸発するまで上昇しつづける. 大気中の水蒸気量が未飽和になった時点で (ここでの議論に用いたモデルでは表現できない) とあるエネルギー平衡状態に達することになる.


  • 暴走温室効果と海洋の存在条件については, 松井 孝典 他共著「比較惑星学」(岩波書店) 第 4 章 に詳しい解説がある.


最終更新日: 2002/09/11 小高 正嗣 (odakker@gfd-dennou.org)
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