海洋モデルで用いられる状態方程式の調査
目次
1 海洋モデルで使われている EOS の比較
1.1 比較表
EOS-80 の多項式近似(FM83, M91 他) | JM95 | MJWF03 | JMFWG06 | IOC10 | ||
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POM | \(\bigcirc\) | |||||
POP | \(\bigcirc\) | \(\bigcirc\) | \(\bigcirc\) | |||
ROMS | \(\bigcirc\) | |||||
MITgcm | \(\bigcirc\) | \(\bigcirc\) | \(\bigcirc\) | |||
MOM | \((\bigtriangleup)\) | \(\bigcirc\) | \(\bigcirc\) | |||
MRI.COM | \(\bigcirc\) | |||||
COCO | \(\bigcirc\) | |||||
FVCOM | \(\bigcirc\) | \(\bigcirc\) | ||||
HYCOM | \(\bigcirc\) | |||||
NEMO | \(\bigcirc\) |
1.2 補足1 海洋モデル(参考ページ1, 参考ページ2 )
- POM: Princeton Ocean Model
- ROMS: Regional OCean Modeling System
- Rundgers 大と ULCA のモデル
- MOM: Modular Ocean Model
- GFDL のモデル
- OFES: OGCM For Earth Simulator
- FRCGC/ESC が MOM3.1 を地球シミュレータ用に最適化
- COCO: CCSR Ocean Component Model
- MRI.COM: MRI Community Ocean Model
- 気象研究所のモデル
- MICOM: Miani Isopycnal Coordinate Ocean Model
- HYCOM: HYbrid Coordinate Ocean Model
- GOLD: Generalized Ocean Layered Dynamics ocean model
- MITgcm
- FVCOM: Finite Volume Coastal Ocean Model
- POP: Parallel Ocean Model
1.3 補足2 状態方程式
1.3.1 EOS-80 (UNESCO(1981) の海水の国際状態方程式)
- 過去 30 年間海洋学で使われてきた.
- 多項式によって定義される 5 つの独立したアルゴリズムから構成される
- 実用塩分スケール
- 実用塩分・(現場)温度・圧力の関数としての海水密度の式
- 海水の定圧比熱
- 海水の音速の式
- 海水の氷点の公式
- 熱力学的特性は, 全体的には自己矛盾を含む.
- JPTOS に支持されたその他のアルゴリズム
- 静水圧と深さの変換
- 断熱減率の計算
- 温位の計算
1.3.2 FM83
- EOS-80 の Fortran による実装
1.3.3 M91
- 圧力の効果を含む. UNESCO の定式化における圧力項を簡単化.
1.3.4 JM95
- EOS-80 に基づくが, 現場温度の代わりに 温位 を使う.
- 適用範囲
- 塩分 0 ~ 42 [psu], (現場)温度 -2 ~ 40 [ \(^\circ \rm C\) ], 圧力: 0 ~ 10000 [dbar]
- fitting 誤差: RMS 5.8 × 10-4 kg m-3, 最大絶対誤差 6.7 × 10-3 kg m-3.
1.3.5 MJWF03
- EOS-80 より精度の良い Feistel and Hagen の状態方程式と fitting
- FH の状態方程式は熱力学的ポテンシャルに基づき, 熱力学的に一貫性がある.
- 適用範囲
- 圧力: 0 ~ 8000 [dbar]
- 塩分: (海面) 0 ~ 40 [psu], (5500db より深部) 30 ~ 40 [psu]
- 温位
- 上限: (海面) 33 [ \(^\circ \rm C\) ], (5500db より深部) 12 [ \(^\circ \rm C\) ]
- 下限: -2.6 [ \(^\circ \rm C\) ]
- 500 db, 40 psu に対する氷点に対応. (500db より深部では氷棚はふつう見られない)
- 誤差
- fitting 誤差: (密度) RMS 1 × 10-3 [kg m-3]
- 詳細ページ
1.3.6 JMFWG06
- MJWF03 の更新
- 「保存的」温度, 凝結温度のアルゴリズム
- 適用範囲: MJWF03 よりも少しだけ広い
- 圧力: 0 ~ 8500 [dbar]
- 塩分: (海面) 0 ~ 40 [psu], (5500db より深部) 30 ~ 40 [psu]
- 温度
- 上限: (海面) 40 [ \(^\circ \rm C\) ], (5500db より深部) 15 [ \(^\circ \rm C\) ]
- 下限: -2 [ \(^\circ \rm C\) ]
- 500 db に対する氷点に対応.
- 誤差
- F03 状態方程式の元データの誤差: (密度) RMS 3 × 10-2 [kg m-3], (熱膨張率) RMS 6.0 × 10-7 [K-1]
- F03 自体の fitting 誤差: (密度) RMS 10-2 [kg m-3], (熱膨張率) RMS 7.3 × 10-7 [K-1]
- 現実海洋の気候値を使った誤差評価: (密度) RMS 1.9 × 10-3 [kg m-3], (熱膨張率) RMS 2.9 × 10-7 [K-1]
- fitting 誤差: (密度) RMS 2.4 × 10-3 [kg m-3], (熱膨張率) RMS 2.8 × 10-7 [K-1]
- 詳細ページ
2 補足 塩分の定義について
2.1 塩分(絶対塩分)の定義
- 海水 1 kg に溶解している海塩の質量を塩分と定義する.
- 単位は g/kg あるいはパーミル.
2.2 塩分の概念・算定方法の変遷
2.2.1 塩素量に基づく塩分
- 塩素量の定義
- 海水 328.5234 g 中のハロゲンを完全に沈殿させるのに必要な純金の質量をグラム数で表したもの.
- モールの銀滴定法による塩素量の測定
$$
{\rm Cl[‰]} = 0.3285234 {\rm Ag [‰]}
$$
によって塩分量に換算される.
- "0.3285234" という値は, 原標準海水(塩素量 19.3810 ‰) 1kg に対して必要な銀が 58.99428 g であることによる.
- 塩分への換算: クヌーセンの式 $$ {\rm S_c[‰]}=0.0305 + 1.805 {\rm Cl_s [‰]} $$ によって与えられる.
- 電気伝導度計による塩素量の測定
- Cox et al(1967): 海水サンプルと標準海水の間の電気伝導度比の関係式を作成
- Wooster et al(1969): 塩素量から塩分への新たな換算式 $$ {\rm S_c[‰]}=1.80655 {\rm Cl_s [‰]} $$ を与えた
- Muller(1999): 一気圧下で, 10 から 30 ℃ の範囲で有効な塩分と電気伝導度比の関係式を導いた.
2.2.2 実用塩分
- 15 度, 1 気圧における塩化カリウムの標準溶液(32.4356‰)との電気伝導度の比 \(K_15\) を用いて,
実用塩分は,
$$
S_p = a_0 + a_1 K_{15}^{1/2} + a_2 K_{15} + a_3 K_{15}^{3/2} + a_4 K_{15}^2 + a_5 K_15^{5/2}
$$
で表される.
- 標準溶液は 15 度, 1 気圧において, 塩素量に基づく塩分が 35 ‰の標準海水と電気伝導度が等しくなるように決められている.
- そのため, \(K_{15}=1\) のとき, \(S_p=35\) となる.
- 標準溶液は 15 度, 1 気圧において, 塩素量に基づく塩分が 35 ‰の標準海水と電気伝導度が等しくなるように決められている.
- この定義では, 成分が異なっていても電気伝導度が同じであれば, 塩分は同じとなる.
- 原則的には単位はないが, しばしば単位として psu をつけて表示する.
- 問題点
- 実用塩分と絶対塩分には差がある.
- SI 単位系でない
- 電気伝導度に影響を与えない溶存物質は, 実用塩分に変化をもたらさない
など
- これらの問題のために, IOC2010 の状態方程式では絶対塩分が用いられる.