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A. 準圧縮方程式系の導出

1 温位 1#1, エクスナー関数 2#2, 風速 3#3 を予報変数とする場合 の方程式系

地球大気における湿潤対流の定式化同様, 大気の乾燥成分と湿潤成分の 分子量の差を密度の式には考慮するが, 熱の式には考慮しないような 系を考える. またガスは理想気体であるとみなす. このような系では温位 1#1 が非凝結時の保存量として使える.

1 元となる方程式系

3 次元大気の状態を 気温 280#280, 圧力 281#281, 風速 3#3, 密度 16#16 で表現する場合, 一般的な圧縮性流体の方程式系は以下のようになる [*].

運動方程式
 
    282#282 (72)
    283#283 (73)
    284#284 (74)

熱力学第一法則
 
285#285     (75)

状態方程式
 
286#286 19#19 287#287 (76)
288#288 19#19 289#289 (77)

密度の時間発展方程式
 
290#290 19#19 291#291 (78)
292#292 19#19 293#293 (79)
294#294 19#19 295#295 (80)
296#296 19#19 297#297 (81)

ここで 298#298 は凝結物も含んだ単位質量の気塊の定圧比熱, 299#299 は非断熱加熱による温度変化率, 9#9 は凝結性気体の比湿, 10#10 は雲水比湿, 300#300 は雨水比湿である. 301#301 は, 凝結成分の数だけ存在する. 131#131, 129#129, 130#130 はそれぞれ 乱流拡散項, 生成消滅項, 落下項を意味する. 以下では, 温位 1#1, エクスナー関数 2#2, 風速 3#3 を予報変数と する場合の基礎方程式系を導出する.

2 密度の時間発展方程式の書き換え - 比湿の時間発展方程式の導出 -

302#302 となると仮定して renzoku1 - renzoku4 の和をとると,

303#303 (82)

が得られる. 但し 304#304 となる ことを用いた. renzoku1 - renzoku4 及び renzoku5 より
305#305 19#19 306#306  
  19#19 307#307  
  19#19 308#308 (83)
309#309 19#19 310#310  
  19#19 311#311  
    312#312  
  19#19 313#313 (84)
314#314 19#19 315#315  
  19#19 316#316  
    317#317  
  19#19 318#318 (85)
319#319 19#19 320#320  
  19#19 321#321  
    322#322  
  19#19 323#323  
324#324     (86)

ここで
325#325 19#19 326#326 (87)
327#327 19#19 328#328 (88)
329#329 19#19 330#330 (89)
331#331 19#19 332#332 (90)

と置くと,
333#333 19#19 334#334 (91)
335#335 19#19 336#336 (92)
337#337 19#19 338#338 (93)
339#339 19#19 340#340 (94)

を得る. 但し, 341#341 の関係が成り立つので, 28#28 については時間発展方程式を解かずに, 診断的に求めることとする.

3 熱の式の導出

Satoh(2004)に従って, 熱の式 theta1 を導出する. 熱の式を導出する上で, 雨粒または氷粒の存在を無視する. また各分子の定圧比熱の時間変化を無視する. 比内部エネルギー 342#342 の時間発展方程式は

343#343 (95)

と表される. ここで 344#344, 345#345, 346#346 はそれぞれ放射フラック ス, 熱拡散フラックス, 消散率である. 342#342 は比エンタルピー 347#347 を用いて
348#348 (96)

と表される. netu2 を netu1 に代入し, 349#349 について整理すると,
    350#350  
  19#19 351#351  
  19#19 352#352  
  19#19 145#145 (97)

すなわち
353#353     (98)

となる. 比エンタルピーを各カテゴリーの比エンタルピーの和で表現すると
354#354 19#19 355#355  
  19#19 356#356 (99)

となる. 但し 357#357 は潜熱 358#358 の定数部分であり,
359#359 (100)

である. netu4 のラグランジュ微分をとると,
360#360 19#19 361#361  
    362#362  
    363#363  
  19#19 364#364  
    365#365 (101)

となる. 但し
366#366 (102)

と置いた. netu3 を netu6 に代入して 367#367 について整理すると,
368#368 19#19 369#369  
    370#370 (103)

雲粒落下が存在しないことに注意して sphm6, sphm7, sphm8 を netu8 に代入すると,
368#368 19#19 369#369  
    371#371  
    372#372  
  19#19 369#369  
    373#373  
    374#374  
  19#19 369#369  
    375#375  
376#376     (104)

となる. ここで
377#377 19#19 378#378 (105)
379#379 19#19 380#380 (106)
381#381 19#19 382#382 (107)
373#373 19#19 383#383 (108)

と置くと,
384#384 (109)

が得られる.

4 状態方程式の書き換え

equations:eqsdry, equations:eqsvapor より

385#385 19#19 386#386  
  19#19 387#387  
  19#19 388#388 (110)

ここで
389#389 53#53 390#390 (111)
391#391 53#53 392#392 (112)

と置くと,
393#393     (113)

となる. 但し 71#71, 72#72 はそれぞれ非凝結性ガスの気体定数, 凝結性ガスの気体定数 である. 76#76 は気体定数の密度の重みつき平均であり, 本文書では平均 気体定数と呼ぶことにする.

普遍気体定数を 394#394 として,

395#395 53#53 396#396 (114)

と置く. 但し 84#84, 85#85 はそれぞれ非凝結性ガスの分子量, 凝結性ガスの分子量を表 す. また 78#78 を平均分子量と呼ぶことにする. 本モデルでは 76#76, 78#78 を一定値とみなし, 以降 75#75, 86#86 と書くことにする. ここで
397#397 (115)

を導入すると,
385#385 19#19 398#398  
  399#399 400#400  
  19#19 401#401  
  19#19 402#402  
  19#19 403#403  
  19#19 404#404 (116)

と近似される[*]. 更に温位
405#405     (117)

及びエクスナー関数
406#406     (118)

並びに
407#407 (119)

を導入すると,
385#385 19#19 408#408 (120)

となる. ここで
409#409 19#19 410#410 (121)

であり, 本文書では 163#163 を平均定圧比熱と呼ぶことにす る. 67#67, 68#68 はそれぞれ非凝結性ガスの定圧比熱, 凝結性ガスの定圧比 熱を表す. また本モデルでは 163#163 を一定値とみなし, 411#411 と表すことにする. Tffにtheta5を代入して 281#281 を消去し, 16#16 について整 理すると,
412#412     (122)

となる.

5 熱力学第一法則の書き換え - 温位の式の導出 -

theta1 において, 凝結物が気体に比べて十分少なく, 413#413, 414#414 が成り立つとする と, 415#415 となるので,

416#416 (123)

と近似される. 平均定圧比熱を定数で近似すると,
417#417 (124)

となる. さらに凝結物は全密度に比べて十分小さいとみなすと,
418#418 (125)

と近似される. 1#1 のラグランジュ微分をとると,
419#419 19#19 420#420  
  19#19 421#421  
  19#19 422#422 (126)

となる. 但し式変形の途中で 423#423 を用いた. 乱流拡散を考慮すると,
424#424     (127)

が得られる.

予報変数として温位を用いる際には平均気体定数, 平均定圧比熱があまり大きく 変化することを許容しないことを前提とするので, 計算の適用範囲に制約が加わ ることに常に注意しなければならない.

6 相当温位の導出

theta8, sphm7 において, 放射加熱・散逸加熱・乱流拡散・ 雲粒落下を無視すると,

425#425 19#19 426#426 (128)
427#427 19#19 428#428 (129)

となる. ここで 429#429 であると仮定すると [*], epot1, epot2 より
430#430     (130)

となる. epot3において
431#431     (131)

と置くと, 256#256 は近似的に保存量となる.

7 圧力方程式の導出

圧力方程式は密度の式と連続の式を組み合わせることで得られる. Tfg のラグランジュ微分をとると,

432#432 19#19 433#433  
  19#19 434#434  
    435#435  
    436#436  
  19#19 437#437  
    438#438  
  19#19 439#439  
    440#440 (132)

となる. ここで 51#51 は音速であり,
441#441 (133)

である. pressure:theta-pi:drho に renzoku5 を適用すると,
442#442 19#19 443#443  
    444#444  
  19#19 445#445  
    446#446 (134)

となり, 圧力方程式が得られる.

8 運動方程式の書き換え

運動方程式の圧力勾配は, 温位とエクスナー関数を用いることで得られる. theta5, Tff より

447#447 19#19 448#448  
  19#19 449#449  
  19#19 450#450  
  19#19 451#451  

となる. 以上より
    452#452 (135)
    453#453 (136)
    454#454 (137)

が得られる.

9 温位 1#1, エクスナー関数 2#2, 風速 3#3 を予報変数とする場合 の方程式系

以上より, 3 次元大気の状態を 温位 1#1, エクスナー関数 2#2, 風速 3#3, 密度 16#16 で表現する場合, 基礎方程式系は以下のようになる.

運動方程式
 
    455#455 (138)
    456#456 (139)
    457#457 (140)

圧力方程式
 
458#458 19#19 445#445  
    444#444  
459#459     (141)

状態方程式
 
460#460     (142)

熱の式
 
461#461     (143)

凝結性ガスおよび凝結物の比湿の式
 
    462#462 (144)
    463#463 (145)
    464#464 (146)

ただし, エクスナー関数 2#2 は,
465#465     (147)

であり, 音速 466#466
57#57 19#19 58#58 (148)

である.

2 準圧縮方程式系の導出

準圧縮方程式系では, 変数を基本場と擾乱場に分離し, 線形化を行う.

1 基本場と擾乱場の分離

変数を基本場と擾乱場に分離し, 基本場は静水圧平衡にあると仮定する. この時, 変数は以下のように書ける.

467#467 19#19 468#468  
469#469 19#19 470#470  
471#471 19#19 472#472  
37#37 19#19 473#473  
474#474 19#19 475#475  
476#476 19#19 477#477  
478#478 19#19 479#479  
480#480 19#19 481#481  
482#482 19#19 483#483  

ここで基本場の風速 484#484 と雲水比湿と雨水比湿はゼロとみなした. そして基本場には静水圧平衡
485#485     (149)

の関係が成り立つものとする.

2 水平方向の運動方程式の線形化

水平方向の運動方程式を基本場と擾乱場に分離する.

486#486 19#19 487#487  
    488#488  
489#489 19#19 490#490  
    491#491  

上式において移流項以外の 2 次の微小項を消去し, さらに基本場は 4#4 方向に は変化しないことを利用すると, 以下の擾乱成分の式が得られる.
486#486 19#19 492#492  
    493#493 (150)
489#489 19#19 494#494  
    495#495 (151)

3 鉛直方向の運動方程式の線形化

鉛直方向の運動方程式を基本場と擾乱場に分離する.

496#496 19#19 497#497  
    498#498  
    499#499  

上式において移流項以外の 2 次の微小項を消去すると以下となる.
496#496 19#19 500#500  
    501#501  

さらに静水圧の式
502#502     (152)

を利用すると以下のようになる.
496#496 19#19 500#500  
    503#503  
  19#19 504#504  

仮温位
505#505     (153)

を基本場成分と擾乱成分に分けると,
506#506 19#19 507#507  
  19#19 508#508 (154)
509#509 19#19 510#510  
  19#19 511#511  
    512#512 (155)

となるので, 浮力項は
513#513     (156)

と書き換えられる. 従って線形化された鉛直方向の運動方程式は
111#111 19#19 514#514  
    515#515 (157)

となる.

4 圧力方程式の線形化

Klemp and Wilhelmson (1978) では, 非断熱的な加熱による熱膨張と 凝結に伴う圧力変化を無視しているが, 本モデルではこれを無視しない. pressure:theta-p:p に sphm6, sphm7 を代入する と,

442#442 19#19 516#516  
    517#517  
    518#518  
  19#19 516#516  
    519#519 (158)

となる. pressEQ1 の左辺を線形化すると,
442#442 19#19 520#520  
  521#521 522#522  

となる. 乱流拡散項・生成項・雲粒落下項は擾乱成分とみなすと, 圧力方程式を線形化したときの 523#523, 及び 524#524 からの寄与は基本場成分のみとなる. 従って pressEQ1 の右辺を線形化すると,
    516#516  
    525#525  
  521#521 526#526  
    527#527  
  19#19 526#526  
    528#528  

となる. ここで 529#529, 530#530 となることを用いた. また
531#531      

である. 従って線形化された圧力方程式は
114#114 19#19 532#532  
    116#116  
    528#528  
533#533     (159)

と表される. pressEQ2 の右辺第 1 項, 第 2 項をまとめると,
    532#532  
  19#19 534#534  
  19#19 535#535  
  19#19 536#536  
  19#19 537#537  

以上より,
114#114 19#19 537#537  
    116#116  
    528#528  
538#538     (160)

である.

5 熱の式の線形化

熱の式を平均成分と擾乱成分に分離する.

539#539 19#19 540#540  
    541#541  

ここで平均場の量は 6#6 の関数であることを用いると,
542#542 19#19 543#543  
    544#544 (161)

となる.

6 比湿の保存式の線形化

凝結成分の比湿の保存式についても, 変数を平均成分と擾乱成分に分離する. 熱の式と同様に, 以下のように書ける. 但し, 生成項, 落下項は擾乱成分のみ 存在すると仮定する. この仮定は平均場では凝結は生じていないと考えることに 等しい.

153#153 19#19 545#545  
    546#546 (162)
156#156 19#19 547#547  
    548#548 (163)
159#159 19#19 549#549  
    550#550 (164)

但し雲水量と雨水量は擾乱成分のみの量である.

7 エネルギー方程式の導出

準圧縮方程式系におけるエネルギー方程式を導出する.

bunri:moist:dudt, bunri:moist:dvdt, bunri:moist:dwdt にそれぞれ 551#551, 552#552, 553#553 を掛けて足し合わせると

554#554 19#19 555#555 (165)

となる. 但し 556#556, 557#557, 558#558 と置いた. 連続の式
559#559 (166)


560#560 (167)

より
561#561 (168)

となる. 但し 562#562 であ ることを用いた. AAB を用いると, AAA の右辺第 1 項は
563#563 19#19 564#564  
  19#19 565#565 (169)

となる. また pressEQ3 を用いて AAA の右辺第 2 項を書き換えると
566#566 19#19 567#567  
  19#19 568#568  
    569#569  
    570#570  
    571#571  
    572#572  
  19#19 573#573  
    574#574  
    575#575  
    571#571  
    576#576 (170)

となる. AAB より任意のスカラー量 577#577 について
578#578 (171)

が成り立つ. Thermeq 及び AAE を用いて AAA の右辺第 4 項 を書き換えると,
579#579 19#19 580#580  
  19#19 581#581  
  19#19 582#582  
  19#19 583#583  
    584#584  
  19#19 585#585  
    586#586  
    587#587 (172)


588#588 19#19 589#589  
    590#590  
    591#591  
592#592     (173)


593#593 19#19 594#594  
    595#595  
    596#596  
597#597     (174)


598#598 19#19 599#599  
    600#600  
    601#601  
602#602     (175)

AAC, AAD, AAF, AAF-2, AAF-3, AAF-3A より AAA は以下のように書き換えられる.
    603#603  
  19#19 604#604  
    574#574  
    575#575  
    528#528  
    605#605  
    606#606  
    607#607  
    608#608  
    609#609  
    610#610 (176)

計算領域として矩形領域を想定し, 鉛直方向の境界からの流出は無く, 水平境界 の両端では周期的であるとすると, 計算領域境界面でのフラックスはゼロとなる. 従って AAG を全計算領域にわたって積分すると,
    611#611  
  19#19 612#612  
    613#613  
    575#575  
    614#614  
    615#615  
    616#616  
    617#617  
    608#608  
    618#618  
    619#619 (177)

となり, 準圧縮方程式に関するエネルギー方程式が得られる.

AAH の左辺は全エネルギーの時間変化を表している. 左辺の被積分関数の第 1 項, 第 2 項, 第 3 項はそれぞれ運動エネルギー, 浮 力による位置エネルギー, 弾性エネルギー(熱エネルギー)を表す. 右辺第 1 項, 第 5 項, 第 6 項は準圧縮近似によって現れる項であり, 一般に ゼロとなることはない. 右辺第 2 項は運動量の乱流拡散, 第 3 項は凝結, 第 4 項は非断熱加熱と乱流 拡散, 第 7 項は蒸気の勾配・雲粒落下・水蒸気拡散, 第 8 項は温位勾配・非断 熱加熱を表す. 非断熱加熱や乱流拡散や基本場の空間変化が存在しなかったとしても, 右辺がゼ ロとなることは無い. 即ち, 準圧縮方程式では全エネルギーが保存されることはない.

3 まとめ

準圧縮方程式系は以下のようにまとめられる.

運動方程式
 
486#486 19#19 492#492  
    620#620 (178)
489#489 19#19 494#494  
    621#621 (179)
111#111 19#19 514#514  
    622#622  
623#623     (180)

圧力方程式
 
114#114 19#19 115#115  
    117#117  
    118#118  
624#624     (181)

熱の式
 
542#542 19#19 625#625  
    626#626 (182)

比湿の保存式
 
153#153 19#19 545#545  
    627#627 (183)
156#156 19#19 547#547  
    628#628 (184)
159#159 19#19 549#549  
    629#629 (185)

エネルギー方程式
 
    611#611  
  19#19 612#612  
    613#613  
    575#575  
    614#614  
    615#615  
    616#616  
    617#617  
    608#608  
    618#618  
    630#630 (186)



Footnotes

... 一般的な圧縮性流体の方程式系は以下のようになる[*]
本モデルは水平鉛直 2 次元であるが, 将来のモデルの開発計画を見据え, 本付 録においては 3 次元の方程式系を導く.
... と近似される[*]
TfA で行なった近似の精度については現在調査中である.
... であると仮定すると[*]
地球大気ではこの近似が成立するとされているが, 他の惑星大気で成立するかど うかは常に確かめる必要がある.
Yamashita Tatsuya 2010-04-14