QBO

裏話

論文は正しかった

この実験は,「ちょっと学生実験でやってみよう」という気楽な 気持ちで始めた. ところが,何年やってもうまくできない.

何度も装置の改良を重ね,ほぼ Plum and McEwan の論文と同じ 条件で行えるようにしても,やっぱりダメ. これだけやっても,流れが出ないということは, もとの論文の何かがおかしい,と結論しようと思った矢先, 流れの反転が起こった!!

その失敗の5年間の間に, 多くの学生がこの実験の結果を見ることなく, 去っていった.

救世主は泥水

成功のきっかけは, とんでもないところからやって来た.

何度やってもうまく行かないので, この実験装置を別のことに応用しようと考え, QBO 実験が失敗に終わったあとで, 水槽中に泥水を加え, 内部波を起こして見たところ, なんと,不完全ながら反転する流れが出てしまった.

これに気をよくして,今度こそ,と再度実験を行ったのだが, またしても,うまく行かない. 「前回と違うのは泥水を入れてないだけ」というわけで, 半分やけくそに泥水を入れたら,また流れができた.

これはいったいどういうことだろう? 泥を入れたからといって, 何かいいことが起こるのだろうか?

リゲインで頑張る

どうやら,泥を入れたことより, 水を入れたことが重要らしい.

実験の準備段階で成層状態を作るとき, 真水から先に水槽に注入するのだが, 最初のコントロールが難しい. 結果として水面付近の成層が,うまくできない場合がある. しかも, 仮に準備がうまく行ったとしても, この実験では波を水面で起こしているので, 長時間実験を行うと, その付近の水が混ざって成層状態が崩れてしまう. というわけで,水面付近の成層がくたびれている 可能性が高い. そこに水を注入すると, 成層状態を回復する効果があるわけだ.

そこで,実験を開始する前に, ビタミン剤として真水を注入することで, 成功率が格段に上がった.

その後,成層の強さを測る方法を開発し, 調べたところ,成層が壊れるのは水面から 2cm 程度の深さまでで あることがわかったので, 水を入れる代りに, 成層が壊れた部分を取り除く(上層の水を捨てる) ことで,再現性のある実験を行うことができるようになった.