定式化ドキュメントに従って
木星条件での断熱温度減率, 仮温度減率, 静的安定度を計算する.
その際, 凝縮物が少ないとする近似を用いた場合の計算結果と
凝縮物が多いとする近似を用いた場合の計算結果も併せて表示し,
それらの近似の成立する条件を調べる.
おおよその見積もりによると,
H2O の凝縮に伴いそれぞれの近似の成立する条件は以下の通りである.
- モル比 << 2.0d-2
--> 凝結物の少ない近似が成立
- モル比 >> 8.0d-2
--> 凝結物の多い近似が成立
木星大気の H2O のモル比は, O/H が太陽組成程度とした場合に 1.5d-3 程度,
太陽組成の 10 倍とすると 1.5d-2 である.
太陽組成よりも凝縮成分が多いとすると, 凝縮物の少ないとする近似は
成立しないことが予想される.
このページで示す計算では, 凝縮のエンタルピー(潜熱)を,
飽和蒸気圧とクラウジウス・クラペイロンの式より計算する.
飽和蒸気圧は antoine の式を用いる.
oboroでも
飽和蒸気圧の式を用いて凝縮相の化学ポテンシャルを計算しているので,
本計算と oboro の計算は本質的におなじものである.
- 計算日時
- 2004-11-22
- ソース
-
eccm/src/eccm.f90
- 共通設定
-
化学種 |
非凝縮成分: H2(g) と He(g) の混合物, H/He = 0.095 (1 x solar)
凝縮成分: H2O(g) --> H2O(l) |
比熱 |
非凝縮成分: 27.66 J/K mol
凝縮成分: 33.5 J/K mol
|
分子量 |
非凝縮成分: 2.32d-3
凝縮成分: 18.0d-3
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潜熱 |
Antoine の式とクラウジウス・クラペイロンの式より与える |
飽和蒸気圧 |
Antoine の式より計算する |
重力 |
23.2 m/s^2 (木星) |
気体定数 |
8.31 J/K mol |
格子点数 |
2,000 (ログ座標で等間隔) |
圧力領域 |
10 bar -- 0.1 bar |
- 計算パラメタ
- 温度は 5 bar 付近で凝縮が生じるように与えている.
-
実験名 |
モル比 |
モル比の比率 |
初期温度 |
ケース 0 |
1.5d-5 |
0.01 |
280 K |
ケース 1 |
1.5d-4 |
0.1 |
307 K |
ケース 2 |
7.5d-4 |
0.5 |
330 K |
標準実験 |
1.5d-3 |
1.0 |
341 K |
ケース 3 |
7.5d-3 |
5.0 |
371 K |
ケース 4 |
1.5d-2 |
10.0 |
387 K |
ケース 5 |
7.5d-2 |
50.0 |
427 K |
それぞれのケースでのモル比(X), 凝縮温度(T), 静的安定度(N^2)の値と, ケース 1 での値との比(X/X_1, T/T_1, N^2/N^2_1)を示す. 静的安定度は凝結高度(現在の場合は 5 bar) での最大値を示している.
- ケース 0 から ケース 2 では, 静的安定度はおおよそ
「モル比 / 温度^3」に比例する.
- ケース 3 からケース 5 では, 凝縮成分を増やしたとしても
静的安定度がそれに比例して大きくならない.
その結果, 以下のことがわかる.
- モル比がおおよそ太陽組成の 0.5 倍くらいまで(ケース 1)は静的安定度が
凝縮成分のモル比/温度^3に比例する.
- 凝縮成分のモル比が太陽組成の 10 倍(ケース 4)では, 静的安定度はもはや
凝縮成分のモル比に比例しない.
- 例え凝縮成分を太陽組成の 50 倍(ケース 5)としても, 静的安定度は
太陽組成の 1 倍(標準実験)の場合の 10 倍にはならない.
図には示していないが, 100 倍にしたとしても, 静的安定度は
太陽組成の 1 倍(標準実験)の場合の 10 倍にはならない.
実験名 |
モル比 |
静的安定度 |
凝縮温度 |
モル比の比率 |
凝縮温度の比率 |
安定度の比率 |
モル比/温度^3 |
ケース 0 |
1.5d-5 |
1.03d-6 |
227.4K |
0.1 |
0.91 |
0.14 |
0.13 |
ケース 1 |
1.5d-4 |
7.33d-6 |
249.3 K |
1.0 |
1.0 |
1.0 |
1.0 |
ケース 2 |
7.5d-4 |
2.65d-5 |
268.0 K |
5.0 |
1.08 |
3.62 |
3.96 |
標準実験 |
1.5d-3 |
4.4d-5 |
276.9 K |
10.0 |
1.11 |
6.0 |
7.3 |
ケース 3 |
7.5d-3 |
1.17d-4 |
301.3 K |
50.0 |
1.20 |
16.0 |
28.9 |
ケース 4 |
1.5d-2 |
1.57d-4 |
313.2 K |
100.0 |
1.26 |
21.0 |
50.0 |
ケース 5 |
7.5d-2 |
2.52d-4 |
347.4 K |
500.0 |
1.40 |
34.4 |
182.2 |
断熱温度減率をプロットする. 黒線は実際の断熱温度減率,
赤線は凝縮物が少ないとした時の断熱温度減率,
緑線は凝縮物が多いとした時の断熱温度減率である.
凝縮物が少ない近似(赤線)では湿潤断熱温度減率はおおまかに
凝縮成分のモル比に依存するので,
凝縮高度で最も小さな値を持ち, 次第に大きくなる. 現在は擬断熱変化を
仮定しているために, 凝縮物は系から取り除かれ, 高度が高いほど凝縮成分が
少なくなっているためである. モル比 X_k は飽和蒸気圧から決まり,
飽和蒸気圧は指数対数の形式で表現できるので, 凝縮成分が少なくなるにつれて
指数関数的に乾燥断熱減率へ近付く.
凝縮物が多い近似(緑線)は温度に比例するので,
温度が高い(= 圧力が高い)領域ほど温度減率は大きくなる.
圧力が低くなるにつれて温度が下がるので, 温度減率は小さくなる.
断熱減率からのずれ具合は, 係数 Cp T / λ で決まる.
この値はおおよそ 0.22 程度である.
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ケース 1 (0.1 倍)の場合.
赤線と黒線は一致する.
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ケース 2 (0.5 倍)の場合.
赤線と黒線はほぼ一致する.
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標準実験. 赤線と黒線はほぼ一致する.
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ケース 3 (5 倍)の場合.
赤線とも緑線とも一致しない.
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ケース 4 (10 倍)の場合.
赤線とも緑線とも一致しない.
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ケース 5 (50 倍)の場合.
黒線は緑線に近付く.
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仮温度減率をプロットする. 黒線は実際の仮温度減率,
赤線は凝縮物が少ないとした時の仮温度減率,
緑線は凝縮物が多いとした時の仮温度減率である.
凝結高度付近で仮温度減率が急激に小さくなり, 果てには負の値を持つ
のは, 分子量の効果である.
仮温度減率は「温度減率 - 分子量の鉛直変化」として表される.
凝結高度付近では分子量の鉛直変化が大きいので, 温度減率が
小さくなる.
もしも分子量の鉛直変化の寄与が温度減率の寄与よりも大きくなると,
仮温度減率は負となる.
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ケース 1 (0.1 倍)の場合.
赤線と黒線は一致する.
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ケース 2 (0.5 倍)の場合.
赤線と黒線はほぼ一致する.
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標準実験. 赤線と黒線はほぼ一致する.
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ケース 3 (5 倍)の場合.
赤線とも緑線とも一致しない.
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ケース 4 (10 倍)の場合.
赤線とも緑線とも一致しない.
分子量の効果のために, 仮温度減率はほぼ零となる.
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ケース 5 (50 倍)の場合.
黒線は緑線に近付く.
分子量の効果が非常に効くため, 仮温度減率は負となる.
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静的安定度をプロットする. 黒線は実際の仮温度減率,
赤線は凝縮物が少ないとした時の仮温度減率,
緑線は凝縮物が多いとした時の仮温度減率である.
凝縮成分の多い場合に, 凝結高度付近で静的安定度の曲率が変化するのは
分子量の効果である.
仮温度減率は「温度減率 - 分子量の鉛直変化」として表され,
分子量の鉛直変化が大きい場合には仮温度減率はほぼ零になる.
すなわち大気の上下で仮温度が変わらなくなる.
その時には静的安定度も上下でほとんど変化しないことになる.
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ケース 1 (0.1 倍)の場合.
赤線と黒線は一致する.
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ケース 2 (0.5 倍)の場合.
赤線と黒線はほぼ一致する.
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標準実験. 赤線と黒線はほぼ一致する.
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ケース 3 (5 倍)の場合.
赤線とも緑線とも一致しない.
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ケース 4 (10 倍)の場合.
赤線とも緑線とも一致しない.
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ケース 5 (50 倍)の場合.
黒線は緑線に近付く.
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