ここでは連続系での球面調和函数を定義し,
スペクトル計算の理解に必要な性質を挙げ, 証明する.
まず球面調和函数を定義し,
次いで球面調和函数が完全直交系をなすことを主張する.
このことにより,
球面上に分布するあらゆる連続関数が
球面調和函数の重ね合わせで一意的に表されることになる.
球面調和函数は2次元ラプラシアンに関する固有関数であり,
このために全波数という概念が生まれる.
参考までにこのことも記しておく.
さらに, 球面調和函数を空間微分した結果も書いておく.
また, イメージをつかむために, ルジャンドル(陪)関数のグラフを示す.
ここでは, 岩波公式集10の Legendre函数・陪函数 , 2 で規格化したLegendre函数・陪函数 , で規格化した球面調和函数 の順に定義する. さらにそれらの性質として, 従う微分方程式, 漸下式, 完全規格直交性について述べる.
岩波公式集によると Legendre函数・陪函数 は において次式で定義される (Rodrigues の公式).
(74) |
ただし, は を満たす整数である. Legendre函数 を とも書く.
は次の方程式を満たす.
(75) |
ただし, は を満たす整数である.
は次の漸化式に従う.
(76) |
さらに, 次の関係式が成り立つ.
(77) |
は
次の直交関係を満たす.
(78) |
で定義される連続関数 は
を用いて
(79) | |||
(80) |
2 で規格化した Legendre函数・陪函数 は において次式で定義される.
(81) |
は, 次の方程式を満たす.
(82) |
は, 次の漸化式に従う.
(83) | |||
(84) | |||
(85) | |||
(86) |
さらに次の関係式が成り立つ.
(87) |
は次の直交関係を満たす.
(88) |
で定義される連続関数 は
を用いて
(89) | |||
(90) |
球面調和函数 は Legendre函数 , 三角関数11 を用いて 次のように定義される.
(91) |
ただし, は を満たす整数である.
は次の方程式を満たす.
(92) |
(93) |
は次の直交関係を満たす.
(94) |
球面上で定義される連続関数
は
を用いて
(95) | |||
(96) |
ここでは, 球面調和函数 の
(97) |
(98) |
(99) | |||
(100) | |||
(101) |
球面調和函数
において のことを全波数と呼ぶ.
全波数には,
座標系の回転に関して不変である, という特徴がある.
すなわち, 任意の
は
回転して得られる座標系
における
全波数 の球面調和函数
の和で表現できる :
(102) |
の概形をつかむために, 2で規格化した 14 のグラフを示す.
ここでは, スカラー量, ベクトルの微分を計算する. さらにそれらを元に, 発散, 渦度 , 速度ポテンシャル, 流線関数 と との関係を付ける.
スカラー量
の 微分は
で与えられる.
の 微分は
で与えられる.
の2次元ラプラシアンは
(103) | |||
(104) |
2次元ベクトル場 の水平発散は
(105) | |||
(106) |
の回転の 成分は,
(107) | |||
(108) |
以上で得られた微分公式を元に, 以下に実際にGCMで使用する便利な微分の公式を並べておく.
水平分布する速度場
(109) |
(110) | |||
(111) | |||
(112) |
水平分布する速度場
(113) |
(114) | |||
(115) | |||
(116) |
速度ポテンシャル , 流線関数 は
(117) | |||
(118) |
(119) | |||
(120) |
15 1515 15 1515
ここでは Legendre函数 の性質である
を記す. 1 より Gauss 格子を定義することが保証される. また, 1, 2 は共に Gauss-Legendre の公式の証明に用いられる.
は, の 次多項式である.
次以下の任意の多項式は
の和で表されること,
の直交性から明らかに,
次以下の任意の多項式 との積を積分すると
(121) |
は に 個の互いに異なる零点を持っている. このことについて, 以下に証明しておく. (寺沢, 1983 の10.7 節より)
この零点の求め方としては, を近似解として Newton 法を用いるという方法がある.
15 1515 15 1515
ここでは Gauss の台形公式を示す.
波数 以下の三角函数で表現される
(
)
(122) |
(123) | |||
(124) |
より実用的な公式は,
(125) | |||
(126) |
以下に Gauss の台形公式の証明を記す.
まず, 左辺を計算すると,
(128) |
(129) | |||
(130) |
(131) |
(132) |
を 次以下の多項式とする.
を2で規格化した n 次の Legendre函数とする.
このとき,
は
の零点である Gauss 格子
における
の値 のみを用いて,
次式にもとづいて正確に評価することができる.
(133) | |||
(134) |
以下では上の式を証明する.
ただし, Legendre函数としては,
最初は岩波公式集のLegendre函数 を用い,
最後に2で規格化したLegendre函数 に
直すことにする17.
STEP 1 Lagrange 補間の導入
を 次多項式( )とする. を岩波公式集のLegendre函数(Rodriguesの公式) とする.
(135) |
を, を Lagrange 補間公式にしたがって補間した多項式として 定義する.
(136) |
したがって, 関数 は
(137) |
を について から 1 まで積分する.
の時については
Legendre函数の直交性より,
の積分は零である.
したがって,
(138) | |||
(139) | |||
(140) | |||
(141) |
ここで, 証明すべき式の は規格化されていて,
上の式の は規格化されていないのにもかかわらず
同じ が使われているが,
と の規格化定数は同じなので
consistent である.
STEP 2 の漸化式を用いた変形
漸化式 (岩波の Lgendre 関数・陪関数の従う漸化式) において
とした式
(142) |
(143) | |||
(144) | |||
(145) | |||
(146) |
(147) |
(148) |
(149) |
(153) |
(154) |
STEP3 の規格化
を
(155) |
(156) |
まとめ
以上より
(157) | |||
(158) |
18 1818 18 1818 18 1818
ここでは 球面直交関数の離散的直交関係である選点直交性を示す.
(159) |
ここで,
は整数で,
であり,
を満たす.
また, は Gauss 荷重,
,
は の零点である.
は それを越えない最大の整数を表す.
これは, 有限な直交多項式系において成り立つ
選点直交性と呼ばれる性質である19.
この式を証明する.
Legendre函数・陪函数の定義・(連続系での)直交性,
Gauss の台形公式,
Legendre函数の零点を用いた多項式の積分評価
を既知とすると,
(160) | |||
(161) |
(162) | |||
(163) | |||
(164) |
(165) | |||
(166) |
余談ではあるが,
直交多項式系においては
離散的な直交関係としては選点直交性のほかに
次のような直交関係も知られている20.
を
で定義された
重み , 規格化定数 の直交多項式
とする.
を の零点,
とすれば, 選点直交性
(167) |
(168) |
実際,
Legendre函数
については
この関係が成り立つ.
すなわち,
を GCM で用いている Gauss 荷重として,
(169) |
三角関数についても同様な離散的直交関係がある. 選点直交性
(170) |
(171) |
ここではスペクトルの係数と格子点値との変換法について述べる. 実際の GCM 計算において必要になるのは
スカラー関数 の 格子点値とスペクトルの係数とのやり取りは 以下のとおりである. ただし, 格子点値は , スペクトルの係数は とする.
以後この文書では簡単のために, を と, を と表記する.
まず,
東西微分( 微分)は次式で評価する.
次に,
一方, (A.107) より
まず,
南北微分(微分)は次式で評価する.
次に,
(A.110) より明らかに,
速度場を
(183) |
まず,
(184) |
(185) |
同様に,
(186) |
(187) |
ここでは
から を求める方法を記す.
まず,
(188) |
(189) |
(190) |
(191) |
ここではスペクトルの係数同士の便利な公式を挙げておく.
の時
(A.122) については
「スペクトルの係数と格子点値とのやり取り」に証明を示した.
ここでは, (A.123) について証明しておく.
微分評価の定義より,
27 2727
GCM では, 物理量を 球面調和函数 で展開したり 波数空間で計算するときに, 計算資源の都合上, ある一定波数以下の波数のみを考慮して計算する. そのことを波数切断するという28. 以下ではまず, 切断の基礎知識として切断の仕方・流儀を述べ, ついで, 切断における事情を述べた上で切断波数の決め方を記す.
波数切断の仕方については, 東西波数(), 南北波数()の それぞれの切断の方法にいくつかの流儀がある. 一般によく用いられるものは 三角形切断(Triangle), 平行四辺形切断(Rhomboidal : 偏菱形)と 呼ばれるものである. 三角形切断の場合について計算する波数領域を波数平面上に書くと (A.1)のようになる. 平方四辺形切断の場合は, (A.2)である.
三角形切断, 平行四辺形切断, という名称は
波数平面上(平面)での形状による29.
より一般的な切断方法は五角形切断 ((A.3)) である.
三角形切断, 平行四辺形切断はそれぞれ, 五角形切断において
三角形切断と平行四辺形切断の違いについて, 世の中では次のように言われている31.
ここでは切断波数と南北格子点数の決め方について記す.
これらは
切断の仕方を決めた後に,
使用する計算資源がネックになって決まる.
その際,
FFT の仕様, aliasing の回避, という2つの数値的な事情を
考慮した上で決める必要がある.
FFT の仕様の事情というのは, 話は簡単で,
東西方向に 「格子
スペクトル」 変換する
ために用いる FFT が
効率よく動くための格子点数・波数がある33ことである.
一方, aliasing に関する事情は複雑である.
ここで扱っているスペクトルモデルでは,
格子点でのみ値を計算している.
いわゆるスペクトルを使うのは,
単に格子点上での水平微分項の評価をする時のみである.
その意味で,
「微分の評価にのみスペクトルを用いるグリッドモデル」
と言ってもよい.
そのように受け止めると,
格子点値を"正しく"計算することを目指し,
また,
考慮する波数は
厳密にスペクトルの係数と格子との変換を行なうことのできる波数,
すなわち変換において情報の落ちないだけの波数を
とらねばならないように思える.
ところが実際には,
スペクトルモデル的な配慮 -- ある波数以下についてのみ
正しく計算し, それ以上の波数については計算しない -- により
切断波数・格子点数が決められている.
また, 後述する理由により
情報は(非線形 aliasing のことを考えずとも)
必ず落ちてしまうのである34.
さて,
以下では aliasing に関する事情を具体的に述べながら,
切断波数に対する格子点数の決め方を記そう.
球面上に連続分布している物理量を球面調和函数で展開する.
ある波数 以下(例えば, T42 ならば )
については
線形項・非線形項の両方について
厳密に計算できるように を決めることを目指す.
を仮に固定したとして,
まずは線形項について
切断波数以下のスペクトルの係数のわかっている物理量 を
格子点値に変換しさらにスペクトルの係数に正しくもどすことを考える.
は
の については
が
わかっているとする.
格子点値は,
について
(194) |
(195) |
(196) |
(197) | |||
(198) |
ちなみに,
格子点値からスペクトルの係数に変換し格子点値にもどす
という立場からすれば,
この Gauss-Legendre の公式の適用条件というのが
情報を落とさずには済まない理由である36.
このことを以下に述べる.
情報を落とさずに
格子点値をスペクトルの係数に変換し格子点値にもどすには,
あらゆる東西波数について
南北方向の格子点数 と同じだけの個数のLegendre函数が必要である.
東西波数 の場合, 登場するLegendre陪函数の は
である.
の次数は であるから,
最大で である.
これが 以下になるのは の時のみである.
の場合は高次のLegendre函数は計算してはならない.
つまり情報を落とさざるをえない37.
改めて を固定するという立場にもどって,
切断波数以下のスペクトルの係数のわかっている物理量 の積から
それらの格子点値を用いて
と との積(非線形項)
のスペクトルの係数を正しく求めるための
の条件を考える.
(199) | |||
(200) | |||
(201) |
(202) | |||
(203) | |||
(204) | |||
(205) | |||
(206) | |||
(207) |
この計算が を
について
正しく評価しているための, の条件を
線形項の場合と同様に考えると,
格子点数 が を,
格子点数 が
を
満たすことである.
ここで, は の最大値を,
は の最大値を表す.
再び
格子点値からスペクトルの係数に変換し格子点値にもどす
という立場からすれば,
これらの に関する条件から,
南北成分のみならず, 東西成分についても
変換によって情報が落ちてしまうことがわかる.
これまでに述べた
を固定したときに
格子点数 がとらねばならない個数について,
線形項・非線形項の2つの場合のうち条件が厳しいのは,
明らかに非線形項の場合である.
この条件以下の格子点数しかとらない場合には,
aliasing をおこすことになる.
以上, FFT, aliasing という2つの事情を考えて 格子点数と切断波数とは同時に決められる. 具体的手順は以下のとおりである.
参考までに, 線形モデルの場合について決め方を示しておく.
40 4040
世の中の多くの GCM の離散化の方法としては, 鉛直方向については必ず レベルと称する差分による離散化を行なうが, 水平方向については, 差分する方法(この方法を用いるモデルをグリッドモデルという)と 球面調和函数で展開してその係数の時間変化を計算する方法 (力学過程において41この方法を用いるモデルを スペクトルモデルという)と が用いられる. その二つの方法については一長一短がある. ここでは双方の特徴について列挙しておく42.
ちなみに, dcpam はスペクトルモデルに分類される.
すなわち, より, 球面調和函数 は 固有値を とする の固有関数である. の完全直交性より, は の 解空間を張っている基底である.
座標系を回転させて, 新たな座標系での球面調和函数 の和の形で 前の座標系での球面調和函数 を 表現することを考えよう.
絶対系で見て同じ位置の値を比べると, 2次元ラプラシアンを演算した値は不変なので, 前の座標系での球面調和函数 は 新たな座標系においても の解である. 新たな座標系の球面調和函数の集合 も の 解空間の基底である. したがって, 前の座標系の球面調和函数は 新たな座標系の球面調和函数の和の形で書ける.
(127) |