next up previous
: 3 支配方程式・力学過程 : DCPAM3 第2部 離散化 : 1 この文書について


2 座標系・変換公式

0 00

0.2 座標系

ここでは水平格子点, 鉛直レベルのとり方を記す. さらに, 力学過程の時間積分において使用する水平スペクトルを定義し, 格子点値とスペクトルの係数との変換則を記す.

0.2.1 水平格子

水平方向の格子点の位置は, Gauss 緯度(格子点数 $J$1), 等間隔の経度(同 $I$ 個)である.

0.2.2 鉛直レベル

Arakawa and Suarez(1983) のスキームを用いる. とり方は以下のとおりである3.

下の層から上へと層の番号をつける. 整数レベルと半整数レベルを定義する4. 半整数レベルでの $\sigma$ の値 $\sigma_{k-1/2} (k=1,2,\cdots,K)$ を定義する. ただし, レベル $\frac{1}{2}$ は下端($\sigma=1$), レベル $K+\frac{1}{2}$ は上端($\sigma=0$)とする. 整数レベルの $\sigma$ の値 $\sigma_k (k=1,2,\ldots K)$ は次の式から求める.


$\displaystyle \sigma_k = \left\{ \frac{1}{1+\kappa}
\left( \frac{ \sigma^{\kapp...
...a +1}_{k+1/2} }
{ \sigma_{k-1/2} - \sigma_{k+1/2} }
\right)
\right\}^{1/\kappa}$     (3)

ただし, ${\displaystyle \kappa=\frac{R}{C_p} }$ である. ここで, $R$ は乾燥空気の気体定数, $C_p$ は乾燥空気の等圧比熱である5 また, レベル加重 Δσは以下のように定義される.

$\displaystyle \Delta \sigma_k$ $\textstyle \equiv$ $\displaystyle \sigma_{k-1/2} - \sigma_{k+1/2}\ ( 1 \le k \le K )$ (4)
$\displaystyle \Delta \sigma_{1/2}$ $\textstyle \equiv$ $\displaystyle \sigma_{1/2} - \sigma_{1}
= 1 -\sigma_{1}$ (5)
$\displaystyle \Delta \sigma_{K+1/2}$ $\textstyle \equiv$ $\displaystyle \sigma_{K} - \sigma_{K+1/2}
= \sigma_{K}$ (6)


\begin{picture}(300,150)(50,10)
\put(50,20){\line(1,0){220}}
\put(50,40){\line...
...){\shortstack{$\sigma=1$}}
\put(280,136){\shortstack{$\sigma=0$}}
\end{picture}
5% latex2html id marker 7180
\setcounter{footnote}{5}\fnsymbol{footnote} 55

0.3 水平スペクトル

ここでは, 力学過程の時間積分での計算において用いるスペクトルを導入し, 格子点での値とスペクトルの係数とのやり取りの公式を示す.

0.3.1 水平スペクトルの基底の導入

格子点上の点で定義された物理量は, 格子点上でのみ値を持つ(以下このことを, 「離散化した」と呼ぶ) 球面調和函数の和の形で表現される. また, 各格子点における物理量の水平微分を評価するために, $(\lambda, \phi)$ 面で定義された(以下, 「連続系の」と呼ぶ) 球面調和函数系で内挿して得られる関数を用いる. ここではその球面調和函数を導入する. なお, 簡単のために, 連続系の球面調和函数のみを陽に記す. 離散系の球面調和函数は 連続系の球面調和函数に格子点の座標を代入したものから構成される.

$(\lambda, \phi)$ 面において, 球面調和函数 $Y_n^m(\lambda,\phi)$ は次のように定義される.

    $\displaystyle Y_n^m(\lambda,\phi)
\equiv P_n^m(\sin \phi) \exp(im \lambda)$ (7)

ただし, $m,n$ $\ 0 \le \vert m\vert \le n$ を満たす整数であり, $P_n^m(\sin \phi)$ は 2で規格化されたLegendre函数・陪函数
    $\displaystyle P_n^m(\mu)\equiv
\sqrt{\frac{(2n+1)(n-\vert m\vert)!}{(n+\vert m\...
...mu^2)^{\frac{\vert m\vert}{2}} }{2^n n!}
\DD[n+\vert m\vert]{}{\mu} (\mu^2-1)^n$ (8)
    $\displaystyle \int_{-1}^1 P_n^m(\mu) P_{n'}^m(\mu) d \mu = 2 \delta_{nn'}$ (9)

である. なお, $P_n^0$$P_n$ とも書く.

0.3.2 波数切断

波数切断は三角形切断(T)または平行四辺形切断(R)とする. M , N は三角形切断, 平行四辺形切断のときについて それぞれ以下のとおりである. ただし, 切断波数を $N_{tr}$ とする.



よく用いられる値の例としては, T42 の場合 $I=128, J=64$ , R21 の場合 $I=64, J=64$ がある.

なお, 球面調和函数についてはリファレンス「球面調和函数」を, 波数切断についてはリファレンス「波数切断」を 参照せよ.

0.3.3 離散化したスペクトルの基底の直交性

離散化したLegendre函数と三角関数は 次の直交条件を満たす6.

    $\displaystyle \sum_{j=1}^{J} P_n^m (\mu_j) P_{n'}^m (\mu_j) w_j
= \delta_{nn'}$ (10)
    $\displaystyle \sum_{i=1}^{I} \exp(im \lambda_i) \exp(-im' \lambda_i)
= I \delta_{mm'}$ (11)

ここで $w_j$ は Gauss 荷重で, ${\displaystyle w_j \equiv \frac{(2J-1)(1-\sin^2 \phi_j)}
{(J P_{J-1}(\sin \phi_j))^2 } }$ である.

0.3.4 格子点値とスペクトルの係数との変換法

物理量 $A$ の 格子点 $(\lambda_i,\phi_j)$ (ただし $i=1,2,\cdots,I, \ j=1,2,\cdots,J$)での値 $A_{ij}=A(\lambda_i,\phi_j)$ と スペクトル空間での $Y_n^m$ (ただし $m=-M,\cdots,M, \ n=\vert m\vert,\cdots,N(m)$ ) の係数 $\tilde{A}_n^m$ とは次の変換則に従う7.


    $\displaystyle A_{ij} \equiv \sum_{m=-M}^{M} \sum_{n=\vert m\vert}^{N}
\tilde{A}_n^m
Y_n^m (\lambda_i,\phi_j)$ (12)
    $\displaystyle \tilde{A}_n^m
= \frac{1}{I}
\sum_{i=1}^{I} \sum_{j=1}^{J}
A_{ij} Y_n^{m*} (\lambda_i, \phi_j) w_j$ (13)



$A$ が実数であることを用いると, ${\displaystyle
\left(\tilde{A}^m_n \exp(im\lambda) \right)^*
= \tilde{A}^{-m}_n \exp(-im\lambda) }$ なので, $m$ については負でない整数の範囲で 和をとることができる8. ただし, $A_n^m$ の定義を修正していることに注意せよ.


    $\displaystyle A_{ij} = \sum_{m=0}^{M} \sum_{n=m}^{N}
\Re \tilde{A}_n^m Y_n^m(\lambda_i, \phi_j)$ (14)
    $\displaystyle \tilde{A}_n^m =
\left\{
\begin{array}{ll}
{\displaystyle \frac{1}...
...}(\lambda_i,\phi_j) w_j
& \ \ \ 1 \le m \le M, m \le n \le N
\end{array}\right.$ (15)

0.3.5 内挿公式

$(\lambda, \phi)$ 空間で定義される物理量 $A(\lambda,\phi)$ を 格子点値 $A_{ij}$ をもとに内挿する場合には, 変換公式を用いて $A_{ij}$ から $\tilde{A}_n^m$ を求めた上で,

    $\displaystyle A(\lambda,\phi)
\equiv \sum_{m=-M}^{M} \sum_{n=\vert m\vert}^{N}
\tilde{A}_n^m Y_n^m (\lambda, \phi)$ (16)

として得る.

0.3.6 空間微分の評価

各格子点における空間微分値の評価は, 内挿公式を用いて得た連続関数の空間微分の格子点値で評価する.



... 個1
以下, $J$ は偶数とする. 現在の東大版大気 GCM では, (Gauss 緯度としてとる場合には) $J$ は偶数でなければならない.
... とする2
$J$ 次の Legendre函数 $P_J (\mu)$
$\displaystyle \left[
\DD{}{\mu}
\left\{ (1-\mu^2) \DD{}{\mu} \right\}
+ J(J+1) \right] P_J(\mu) = 0$     (1)

を満たす $J$ 次多項式であり, $P_J (\mu)$ の零点は全て $-1 < \mu < 1$ にある. その理由について 詳しくは「Legendre函数$P_n$の性質」参照.
なお, Gauss 緯度は近似的には ${\displaystyle
\sin^{-1} \left( \cos \frac{j-1/2}{J}\pi \right)
}$ で与えられる.
... とり方は以下のとおりである3
なぜこうするとよいのかについては未調査. 保存量と関連するらしい.
... 整数レベルと半整数レベルを定義する4
物理量により, 整数レベルで定義されるものと, 半整数レベルで定義されるものがある.
... は乾燥空気の等圧比熱である5
いずれも定数としている.
... 次の直交条件を満たす6
詳しくはリファレンス「球面調和函数の離散的直交関係」 を参照せよ.
... とは次の変換則に従う7
正変換, 逆変換時の係数は consistent に与えてさえいれば問題がない. 現在の GCM では 異なる動作をする2種類の FFT が用意されている. ここでは numerical recipy 版の方法に従っている. (もう一つは 中村一 版である.) 仕様について 詳しくは第3部の FFT に関する項目 (「FFT99X」)を見られたい.
... 和をとることができる8
さらに, 実際の計算手続きとしては, $P_n^m(\sin \phi)$ が, $n-m$ が 偶数(even)の時 $\phi=0$ について対称, $n-m$ が 奇数(odd)の時 $\phi=0$ について反対称 であることを考慮して演算回数を減らすことができる. すなわち, $A_{ij}$ の計算では 北半球のみについて 南北対称成分$A_{ij}^{even}$と 反対称成分$A_{ij}^{odd}$について それぞれ計算し, 南半球については $A{i,J-j}=A_{ij}^{even}-A_{ij}^{odd}$ とすればよい. また, $A_n^m$ の計算においては, その対称性, 反対称性に基づいて $A_{i,j}+A_{i,J-j}$ または $A_{i,j}-A_{i,J-j}$ の一方を $j$ について 1から $J/2$ まで加えればよい.

next up previous
: 3 支配方程式・力学過程 : DCPAM3 第2部 離散化 : 1 この文書について
Morikawa Yasuhiro 平成18年10月9日