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8. 蒸発・凝結による地表面気圧変化

8.1 基本的な考え方

大気の質量は, 水蒸気の蒸発と凝結(降水過程)によって変化する. 現在の地球大気の場合には通常この効果は無視することが できるけれども, 大気中の水蒸気量が増大した場合には 蒸発と凝結による大気質量変化を考慮する必要がある.

蒸発と凝結による大気質量変化をまじめに考慮する場合には, 各高度レベルにおいて質量変化を計算することになる. しかし, そのような取り扱いは $ \sigma$ 座標系においては 非常に繁雑になる. dcpam の蒸発・凝結による大気質量変化を計算するモジュールにおいては, 水蒸気の凝結・蒸発による大気質量の変化については, それぞれの鉛直コラムにおけるトータルの質量変化, すなわち蒸発量と凝結量の差の鉛直積分 だけを考慮し, 各時間ステップの最後で表面気圧 $ p_s$ と比湿 $ q$ を 補正するということをおこなっている.

8.2 表面気圧変化の計算

各時間ステップにおける表面気圧 $ p_s$ の補正量を $ \Delta p_s$, 凝結と蒸発による比湿変化を $ \Delta q$ とおくと

$\displaystyle \Delta p_s = g \int \hat{\rho} \Delta q d \hat{z}
= -g \int \hat{...
...}}{- \hat{\rho} g}
= \int \Delta q d \hat{p}
= \hat{p_s} \int \Delta q d \sigma$     (8.1)

ただし, $ \hat{p_s}$ は補正前の表面気圧, $ \hat{\rho}$ は補正前の大気密度である. $ \Delta q$ は蒸発による比湿の増加項と凝結による比湿の減少の項から 成る. 順番に考える.
  1. 地表面からの蒸発による水蒸気量増加

    地表面における蒸発フラックスを $ F_{evap} \sim L C (q^{*} - q_s) \rho_s$, $ \Delta t$ をタイムステップとすると, 蒸発による最下層の比湿変化 $ \Delta q_{evap}$

    $\displaystyle \frac{\Delta q_{evap}}{\Delta t}
= \frac{ F_{evap} L^{-1} \rho_s^...
...vap} L^{-1} \rho_s^{-1}}{\Delta p / (\rho_s g)}
= F_{evap} \frac{g}{L \Delta p}$     (8.2)

    となる. これより
    $\displaystyle \Delta q_{evap}
= F_{evap} \frac{g}{L \Delta p} \Delta t$     (8.3)

  2. 凝結による水蒸気減少
    $\displaystyle \Delta q_{cond}
= S^{cond}_{q} \Delta t$     (8.4)

    ただし, $ S^{cond}_{q}$ は凝結による比湿の変化率を表す.

よって,

$\displaystyle \Delta p_s = F_{evap} \frac{g}{L} \Delta t + \hat{p_s} \int S^{cond}_{q} \Delta t d \sigma$ (8.5)

となる.

8.3 比湿の補正

上のように, 表面気圧 $ p_s$ を補正したならば 各鉛直レベルにおける比湿の値も補正しなければ ならない. 補正の前後で水蒸気の質量(絶対湿度)が変わっている わけではないからである. したがって, 水蒸気の質量が補正の前後で等しくなるように 比湿 $ q$ を補正する. 補正の前後で水蒸気の質量が等しくなるという条件は 以下の式で表される.

$\displaystyle \hat{\rho} \hat{q} = \rho q,$ (8.6)

ただし, $ \hat{\rho}$, $ \hat{q}$ は補正前の大気密度・比湿の値を, $ \rho$, $ q$ は補正後の密度・比湿の値を表す. この式を変形する.

$\displaystyle \frac{\hat{p_{s}} \sigma}{RT} \hat{q} = \frac{p_{s} \sigma}{RT} q$ (8.7)

$ p_s = \hat{p_s} + \Delta p_s$ を代入すると
$\displaystyle \frac{\hat{p_{s}} \sigma}{RT} \hat{q}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{(\hat{p_s} + \Delta p_s) \sigma}{RT} q,$  
$\displaystyle \hat{p_{s}} \hat{q}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle (\hat{p_s} + \Delta p_s) q,$  

よって, 最終的に

$\displaystyle q = \frac{\hat{p_s}}{\hat{p_s} + \Delta p_s} \hat{q}$ (8.8)

となる.


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Yasuhiro MORIKAWA 平成20年10月8日