地球流体電脳倶楽部
1996 年 12 月 12 日
Gierasch and Goody(1972)は純 CO大気の放射対流平衡モデル による計算を行った.
図1aはその計算結果である. これは夏半球の緯度40度の状況についての計算例である. 図にはlocal timeの6時と16時の場合を示してある. 縦軸はkmで高さを, 横軸は絶対温度で温度を示してある. 図の下には6時の場合の地表面温度と16時の場合の地表温度が示してある.
この計算では対流圏界面の高さは約15kmとなった.
また, マリナー9号による気温の観測結果が図の中にハッチで示してある.
図からわかるように, 計算と観測結果は見事に合っていない. 計算された値は実際に観測で得られた値よりも低くなっている.
このように計算と観測で不一致が生じたのは, 実際の火星大気ではdustが 太陽放射を吸収し, 大気を加熱するためであると考えられている.
Pollack et al. (1979) は同様のモデルを用いて日変化を計算した. 図1はその計算結果である. これは夏半球の緯度 20 度の場合である. 図には local time の 4 時と 16 時の場合を示してある. 図の下端には 4 時の場合の地表面温度と 16 時の場合の地表温度が示してある. 実線, 一点鎖線, 破線はそれぞれ晴天時とダストストーム時に対応する.
図から, 日変化の影響が大きいのは地表から2kmの範囲であることがわかる. ダストストーム時には上下に温度が一様化し, 日変化の影響も大気上層にまでおよぶ.
以下にこのモデルによる計算結果を示す. ここでは から まで積分を行った例を示す. なお, 初期条件としては等温( )の状態を与えた.
図5に から まで 時間平均し, 経度方向にも平均した風の南北成分(meridional wind)と 東西成分(zonal wind)と気温を示す. 図は子午面断面図で斜線付きの曲線が地表をあらわしており, 左端が南極で, 右端が北極である. 図の中の太い線(南半球の極域の地表に引かれているもの)は極冠をあらわす. meridional windの図(一番上)ではハッチを付けたところが北風, ハッチを付けていないところが南風をあらわす. zonal windの図(真中の図)ではハッチを付けたところが東風, ハッチを付けていないところが西風をあらわす. 気温の図(一番下)は気温を絶対温度であらわしてある. 図5より, モデルの計算では次の特徴があることがわかる. 赤道域の地表付近では南風が吹いているのに対し, 上空では北風が吹いている. (meridional windの図を参照) これは赤道をはさんだ循環が生じていることを示唆する. zonal windの図から南半球(この場合南半球は冬になっている)の 中緯度の上空では西風のジェットができていることがわかる. 気温の図から南半球の極冠のすぐ北側で温度勾配が大きくなっている ことがわかる.
図6は mb面と mb面におけるgeopotentialの 偏差の計算結果である. ここで言う偏差というのは積分を開始してから49火星日目から 64火星日目までのgeopotentialの時間平均からのズレである. 図6a,図6b,図6cはそれぞれ56日目の0時にける偏差, 56日目の12時における偏差, 57日目の0時における偏差をあらわす. この図から東向きに進む渦があるあることがわかる. (例えば, 56日目0時に( S, W )にある低気圧) これは傾圧不安定波と考えられる.
geopotential heightと風を計算した結果の一例が図7である. 図7aはmb面における値を示している. ここでの最大風速は40.2m/secである. 図7bはmb面における値を示している. ここでの最大風速は32.6m.secである.
この図の上端はNで, 下端はSである. また, 左端はEで, 右端はWである.
geopotential heightと風のからまで 時間平均のzonal meanからの 偏差を図に示してある. geopotential heightの等値線間隔はkmである.
風については, 長さを最大風速で規格化した矢印を用いて表している.
この結果から( S, W )と ( S, W )に大きな気圧の谷(ridge)が 存在することがわかる. これは地形により作られた定在波であると考えられる. (Pollack et al(1981)では quasi-barotropic waves kinematically forced by the topography と言っている.)
謝辞
本稿は 1989 年から 1993 年に東京大学地球惑星物理学科で行われていた, 流体理論セミナーでのセミナーノートがもとになっている. 原作版は石渡正樹による「火星現象論」 (1989/05/19) であり, 林祥介によって地球流体電脳倶楽部版「火星現象論」 として書き直された (1996/06/23). その後小高正嗣によって加筆修正された (1996/12/12). 構成とデバッグに協力してくれたセミナー参加者のすべてにも 感謝しなければならない.
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