地球流体電脳倶楽部
1996 年 12 月 12 日
着陸船に取り付けられた温度センサー(熱伝対)により地表面気温 ならびに気温の鉛直構造を測定した. 地表面気温は着陸船から上方向に0.7m(地表面から1.6m上), 水平方向に0.3m離れた点で測定した. (温度センサーを取り付けたarmを伸ばして観測を行った.) 気温の鉛直構造は着陸船が落下する際測定した. (Hess et al,1977)
周回船は大気上端から出る4つの波長帯における上向き放射を観測した. この観測結果から火星大気の各高度における温度を求めることができる. つまり, 観測から求まった上向き放射量を放射伝達方程式に入れて, 温度について解けば良い.1 用いた4つの波長帯は次のとおり. (Martin,1979)
COの吸収帯なので, この帯域の観測により各高度に おける気温を知ることができる.
silicateの吸収帯なので, この帯域の観測によりダストの効果を 知ることができる. (ダストはsilicateであると考えられている.)
silicateの吸収帯からはずれているので, この帯域の放射は 全て地表からやって来ると考えられる. よってこの帯域から求められた輝度温度は地表面温度と見なすことが できる.
地表面温度は1976年9月11日から9月24日にかけてバイキング1号によって 観測された. この期間は にすると (南半球の冬)にあたる. この期間は周回船の軌道は非同期軌道であり, 主に南半球が 広く見える軌道をとっていた. (近火点高度:1500km, 遠火点高度:32000km) この時期の軌道のおおよその形を図1下図に示す. 周回船が1周すると真下の地点の経度は ずれる.
この期間における周回船からの視野の例を図1上図に示す. これは周回船が近火点の2.2時間前の位置にいるときの視野である. この図では緯線と経線がそれぞれ おきに引かれている. 図の中でshadeされた領域は夜の部分である. この図には7 m 帯の放射観測の時のscanning patternも 重ねて示されている. 周回船が放射観測する時は放射観測計を実線に沿ってscanさせ, 印の点でシャッターを切る. (シャッターを切る間隔は4.48秒である) (Kieffer et al,1977)
図2上図はバイキング1号(1976年)による気温の観測結果である. 観測地点は( N, W)である. 図2の横軸はlocal timeで時間をあらわしており, 縦軸は地表面気温をあらわしている. この図には と のデータが示してある. これらはそれぞれバイキング1号が着陸してから4日目と43日目に対応する. 図2下図はバイキング2号による気温の観測結果である. 観測地点は( )である. この図には と と のデータが示してある. これらはそれぞれバイキング2号が着陸してから1日目と45日目と 55日目に対応する. これらはいずれも北半球の夏の時期である. 気温は1日で約50K変化し, 日数が経過しても, 日変化のパターンはほとんど変化していない. (Hess et al,1977)
図3はバイキング着陸船が火星の大気圏に突入した時に観測した 温度の鉛直構造である. 図3の横軸は気温(絶対温度)をあらわしたものであり, 縦軸は高さ(Km)をあらわしたものである. 左側の曲線がバイキング1号による観測結果(1976年7月20日)で, 右側の曲線がバイキング2号による観測結果(1976年9月3日)である. 図中Aというラベルがついた曲線はCOの乾燥断熱減率を表す. ("COの物性"参照) 図中Cというラベルがついた曲線はCOの凝結温度を表す. この図で読み取れるのは次の2点である.
図4はバイキング周回船の観測をもとにして作った温度の子午面断面図である. この図の横軸は緯度をあらわしており, 縦軸は高さを気圧であらわしてある. 図の右側には対応するおよその高さも示されている. 観測時期は (北半球の夏の初め頃)である. この図の特徴をまとめると次のようになる.
これは冬半球(この場合は南半球)の上空で下降流域になっている ためとLeovy(1979)は考えている.
図5は (南半球の冬)における 地表面温度の日変化の緯度分布である. この図は 帯での輝度温度観測結果から作成した. データは緯度, 経度ごとに得られるが, 日変化成分を取り出す ために経度をlocal timeに直し, 同じ緯度, local timeを 持ったデータを平均し, 緯度-local timeの面上にプロットしたものが 図5である. 帯はダストの効果をほとんど受けないと考えられるので, これは地表面温度と思ってよい. この図から次の2つのことがわかる.
バイキング1号と2号の15m帯の観測結果から図6を得た. この図に示されているのは高度25kmにピークを持つ重み関数に 対応する気温である. だいたい高度25km付近(対流圏上部と考えられる)の気温と考えてよい. 図の横軸は緯度を表し, 縦軸は気温を絶対温度で表している. 図6にはAからEまでの5つの観測例が示してある.
における観測結果. dust stormの前の時期である.
における観測結果. dust stormの期間中である.
における観測結果. dust stormの期間中である.
における観測結果. dust stormの期間中である.
における観測結果. dust stormの期間中である.
鉛直温度構造の違いから, 大気は鉛直方向に分類されている. 以下はCarr(1996)による分類である(図7参照).
ダストストームが発生すると,温度構造は大きく変化する.
たとえば火星大気が非散乱, LTE大気であるとする.
また火星大気が平行平面大気であるとする.
この場合には次のようにして を求めることができる.
上向き放射の放射伝達方程式積分形は
:15 帯における, 高さ において, 図8のような方向に進む単位断面積当り単位時間当たり, 単位立体角当たり, 15 における単位振動数当りの放射エネルギー. これを放射輝度という. ただし ( は天頂角)とおいた.
:15 帯における質量吸収係数
: 15 帯における から までの透過関数. ただしは吸収物質の密度(単位体積中に含まれる吸収物質の質量)である.
観測からは大気上端から出る が得られるので, これから上の放射伝達方程式をインヴァージョンで解いて を求める.
謝辞
本稿は 1989 年から 1993 年に東京大学地球惑星物理学科で行われていた, 流体理論セミナー, 及び 1996 年に行われていた 固体火星セミナーでのセミナーノートがもとになっている. 原作版は石渡正樹による「火星現象論」 (1989/05/19) であり, 林祥介によって地球流体電脳倶楽部版「火星現象論」 として書き直された (1996/06/23). その後小高正嗣によって加筆修正された (1996/12/12). 構成とデバッグに協力してくれたセミナー参加者のすべてにも 感謝しなければならない.
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