キロメータサイズの対流にともなう風によって作られる地表摩擦は
地表からのダストの巻き上げに必要な下限値に達していた
(図 5).
大規模場の背景風が対流場に存在する場合,
風の重ね合わせによりダストの巻き上げはより容易になると考えられる.
そこで本節ではキロメータサイズの対流による風と大規模場の背景風が共存する場合,
地表摩擦はどの程度の大きさとなるかを考察する.
背景風は対流場に影響するため,
簡単な風の重ね合わせが実際に通用するかどうかはよくわからない.
しかし潜在的な地表摩擦の大きさを把握することにはなる.
まず大規模場の風が一般的にどの程度の大きさを持つのかを
GCM の計算結果から評価する.
Joshi et al. (1997)
のダストのない GCM シミュレーションの結果によれば,
高度 250 m における日中時の平均的な風速は
26 msec-1 程度であり,
地表摩擦の大きさは 0.015 Pa であった.
この値から, 本研究でのモデル最下層高度 1.5 m
において期待される大規模場の風速値をバルク公式から評価する.
中立成層を仮定すると, 高度 1.5 m における風速は
と見積もられる.
ここで
はカルマン定数,
は大気の密度である. それぞれ
= 0.35,
= 1.5×10-2 kgm-3
(日中の地上気温から計算) とした.
キロメータサイズの対流にともなう風に, それと平行な 10 msec-1
の背景風を重ね合わせた場合の地表摩擦の分布を 図 6 (上段)
に示す. このとき地表摩擦の大きさはダストの巻き上げに必要な臨界値を頻繁に越える.
背景風が存在する場合,
対流ロールの軸は背景風の方向と平行になる傾向を持つことが知られている
(Asai, 1970).
したがって対流にともなう風と背景風は直交すると考える方がより現実的である.
このときの地表摩擦は平行な背景風を重ね合わせた場合に比べ小さくなる
(図 6 下段).
しかしそれでもダストの巻き上げに必要な臨界値を越える場合がある.
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図 6: 地表摩擦 (絶対値) の水平分布 (LT = 13:00 ~ 16:10).
(上段) 平行な背景風を重ね合わせた場合.
(下段) 直交する背景風を重ね合わせた場合.
緑は重ね合わせた結果, 青は計算結果,
橙と赤はダスト巻き上げに必要な臨界摩擦の下限値と上限値
(Greeley and Iversen, 1985).
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