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D. 化学物性値の計算法

D.1 相平衡条件

D.1.1 飽和蒸気圧

飽和蒸気圧は, Antoine の式より求める.

$\displaystyle \ln p^{*}= (A - B / (C + T - T_{0})) * \log(10.0) + \ln(133.322)$     (D.1)

ここで, $p^{*}$ は飽和蒸気圧, $T$ は温度, $T_{0} = 273.15$ である. $A, B, C$ は Antoine 係数である. それらの値は化学便覧改訂 4 版から得る. 化学便覧改訂 4 版では, 圧力の単位が mmHg, 温度の単位が $^{\circ}$C であ るので, 単位の換算項が付加されている.

表 D.1: 水, アンモニアの Antoine 係数
  A B C
H$_{2}$O(l) 7.9186968 1636.909 224.92
H$_{2}$O(s) 8.184254 1791.3 238.1
NH$_{3}$(s) 9.96382 1617.907 272.55

任意の温度が与えられた場合, 凝縮量は飽和蒸気圧と分圧の差として見積もるこ とができる.

D.1.2 圧平衡定数

硫化アンモニウムの生成反応

$\displaystyle {\rm NH_{3}} + {\rm H_{2}S} \rightarrow {\rm NH_{4}SH}$     (D.2)

の圧平衡定数は,
$\displaystyle K_{p}
= \ln(p_{\rm NH_{3}} \cdot p_{\rm H_{2}S})
= 61.781 - \frac{10834}{T} - \ln{10^{2}}$     (D.3)

である. 圧平衡定数を用いることで, 任意の温度に対する アンモニアと硫化水素のモル比の積を求めることができる.

D.2 生成のエンタルピー変化

D.2.1 潜熱

飽和蒸気圧と潜熱はクラウジウス・クラペイロンの式,

$\displaystyle \DD{p_{v}}{T} = \frac{p_{v} L_{v}}{R T^{2}}$     (D.4)

で関係づけられる. この式を $L_{v}$ の式としてまとめなおすことで, 潜熱は以下のように与えられる.
$\displaystyle L_{v} = \DD{\ln p_{v}}{T} {R_{v} T^{2}}$     (D.5)

但し $R_{v}$ は凝縮成分に対する気体定数である. Antoine の式を代入すると,
$\displaystyle L_{v} = \left\{
\frac{B \ln(10.0)}{ (C + T - T_{0})^{2} }
\right\} R_{v} T^{2}$     (D.6)

である.

D.2.2 反応熱

硫化アンモニウムの生成反応

$\displaystyle {\rm NH_{3}} + {\rm H_{2}S} \rightarrow {\rm NH_{4}SH}$     (D.7)

において, NH$_4$SH のエントロピーと NH$_3$ と H$_2$S の エントロピーの差が, 反応に伴うエントロピー変化に対応する.

NH$_4$SH のモルエントロピーは,

$\displaystyle s_{\rm NH_4SH}$ $\textstyle =$ $\displaystyle - \DP{\mu_{\rm NH_4SH}}{T}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle - \DP{}{T}
\left(
\mu_{\rm NH_3}^{\circ} + \mu_{\rm H_2S}^{\circ} + RT K_{p}
- RT \ln {p_{0}}^{2}
\right)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle s_{\rm NH_3}^{\circ} + s_{\rm H_2S}^{\circ}
- RT \DP{K_{p}}{T} - R K_{p}
+ R\ln {p_{0}}^{2}$ (D.8)

である. ここで $\mu_{\rm NH_3}^{\circ}$, $\mu_{\rm H_2S}^{\circ}$ は NH${}_{3}$ と N${}_{2}$S の標準化学ポテンシャル, $s_{\rm NH_3}^{\circ}$, $s_{\rm H_2S}^{\circ}$ はそれに 対応するエントロピー, $K_{p}$ は (D.7) の反応式の 圧平衡定数である. NH$_3$ と H$_2$S のモルエントロピーの和は,
$\displaystyle s_{\rm NH_3} + s_{\rm H_2S}$ $\textstyle =$ $\displaystyle s_{\rm NH_3}^{\circ} + s_{\rm H_2S}^{\circ}
- R\ln (p_{\rm NH_3}\cdot p_{\rm H_2S}) + R\ln p_{0}^{2}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle s_{\rm NH_3}^{\circ} + s_{\rm H_2S}^{\circ}
- R\ln K_{p} + R\ln p_{0}^{2}$ (D.9)

(D.8) と (D.9) の差
$\displaystyle \Delta s
= RT \DP{K_{p}}{T}$     (D.10)

が反応のエントロピー変化に相当する. モル当たりの反応熱は,
$\displaystyle L_{\rm NH_4SH} = T \Delta s = RT^{2} \DP{K_{p}}{T}$     (D.11)

である. NH$_4$SH 生成反応の圧平衡定数を代入すると,
$\displaystyle L_{\rm NH_4SH} = \frac{10834}{T^2} {R T^{2}} = 10834 R$     (D.12)

である.


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SUGIYAMA Ko-ichiro 平成21年3月6日