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C. 雲微物理過程

Kessler(1969) に基づく雲微物理パラメタリゼーションの, 終端速度 970#970, 雲 水の衝突併合による雨水比湿の変化率 136#136, 平均終端速度 172#172, 蒸発による雨水比湿の変化率 134#134 について解説する [*].

1 雨粒の終端速度

Newton の抵抗法則より球体の抵抗力 971#971

972#972     (291)

と表される. ここで 973#973 は抵力係数であり, 一般にレイノルズ数の関数である. 雨滴の落下のようにレイノルズ数が大きい現象の場合, レイノルズ数の定義によ り, 粘性力は流れ場にほとんど寄与しなくなる. このとき 973#973 はレイノルズ数に依存しない定数となる. 抵抗力と重力の釣合いを考えると
974#974     (292)

となる. shuutan2 を 970#970 について解くと,
975#975     (293)

となる. Kessler(1969) では 976#976[kg/m193#193], 977#977[m/s230#230], 978#978 [kg/m193#193], 979#979 として
980#980     (294)

としている[*]. 但し 981#981 は地表面での大気密度である. 他の惑星大気においても 979#979 であるとみなすと,
982#982 (295)

が得られる.

2 雲水の衝突併合

雲水の衝突併合による雨水混合比の変化率 136#136 は, 直径 205#205 の単一の 雨粒の衝突併合による質量変化率 983#983205#205 から 984#984 の 範囲の直径を持つ雨粒の数 985#985 を用いて

986#986 (296)

と表される. 983#983 は,
987#987 (297)

と表される. ここで 970#970 は雨粒の落下速度, 988#988 は雨粒と衝突した雲粒 のうち雨粒に併合される割合を表す係数(捕捉係数)である.

雨粒のサイズ分布関数と雨粒の落下速度 970#970 を以下のように仮定する.

989#989 19#19 990#990 (298)
991#991 19#19 992#992 (299)

ここで 993#993 はパラメータである. 式マーシャル・パ ルマー型分布関数2の分布は一般にマーシャル・パルマー型分布 (Marshall and Palmer, 1948) と呼ばれる. Kessler (1969) では 994#994 とする. これを式衝突併合による雨水混合比の変化率に代入すると,
995#995 19#19 996#996 (300)
  19#19 997#997  
  19#19 998#998 (301)

を得る. ここで 988#988205#205 によらないと仮定した. Kessler (1969) では 999#999 とする.

雨粒のサイズ分布曲線の傾きを表すパラメータ 224#224 は, 以下の式を用 いて雨水比湿 300#300 で置き換える.

1000#1000 19#19 1001#1001  
  19#19 1002#1002  
  19#19 1003#1003  
  19#19 1004#1004 (302)

ここで 1005#1005 は液相の密度である. これを 224#224 について解き, 式CL_cr 項に代入すると,
995#995 19#19 1006#1006  
  19#19 1007#1007  
  19#19 1008#1008 (303)

となる. 最後の式変形では, 1009#1009 を代入した.

3 平均終端速度

平均終端速度 172#172 は雨滴の鉛直フラックス 1010#1010, 雨滴密度 15#15 により

1011#1011     (304)

と表される. 15#15, 1010#1010 はそれぞれ以下のように表される.
1012#1012 19#19 1013#1013 (305)
1014#1014 19#19 1015#1015 (306)

ここで 1016#1016 は直径 205#205 の雨滴の質量であり,
1017#1017     (307)

と書ける. マーシャル・パルマー型分布関数1, マーシャル・パルマー型 分布関数2, TermVel4 を TermVel2, TermVel3 に 適用すると,
1012#1012 19#19 1018#1018  
  19#19 1019#1019 (308)
1014#1014 19#19 1020#1020  
  19#19 1021#1021 (309)

となる. TermVel5 を TermVel6 に代入して 224#224 を消去すると,
1014#1014 19#19 1022#1022  
  19#19 1023#1023 (310)

となる. TermVel1 に TermVel7 を代入すると
1024#1024 19#19 1025#1025  
  685#685 1026#1026 (311)

が得られる.

4 雨水の蒸発

蒸発による雨水混合比の変化率 134#134 は, 式衝突併合による雨 水混合比の変化率 と同様に

1027#1027 (312)

と表される. ここで 1028#1028 は直径 205#205 の単一の雨粒の蒸発によ る質量変化率である.

雨水の蒸発は雨粒の表面からの水蒸気の拡散によって律速されると仮定する. 雨粒周囲の水蒸気フラックスを 1029#1029 とすると, 雨粒の質量の変化率は

1030#1030 (313)

と表される. ここで 1031#1031 は雨粒中心からの距離, 1032#1032 は雨粒の半径で, 1029#1029

1033#1033

と表される. 1034#1034 は水蒸気の密度, 1035#1035 は水蒸気の拡散係数であ る. 雨粒の周囲では水蒸気フラックスの収束発散はないと仮定すると,

1036#1036

が成り立つ. これを積分し

1037#1037

境界条件 1038#1038 1039#1039, 1040#1040 1041#1041 を適用すると,

1042#1042

これより, 雨粒表面での拡散による水蒸気フラックスは
1043#1043 19#19 1044#1044  
  19#19 1045#1045 (314)

よって,
1046#1046 (315)

と表される. 雨粒が落下しながら蒸発する場合には, 1035#1035 に補正項のついた
1047#1047 (316)

が用いられる. ここで 1029#1029 は換気因子, 1048#1048 は雨粒表面でのクヌーセン層の 厚さである[*].

Kessler (1969) では, 蒸発による雨粒の成長方程式の右辺の項を 以下のように近似する.

1049#1049


このとき蒸発による雨粒の成長方程式は
1050#1050 (317)

となる. これを式蒸発による雨水混合比の増加率に代入し, 雨粒のサイズ分布としてマーシャル・パルマー型分布関数1を 仮定すると,
1051#1051 19#19 1052#1052  
  19#19 1053#1053  
  19#19 1054#1054  
  19#19 1055#1055  
  19#19 1056#1056  
  19#19 1057#1057 (318)

最後の式変形を行う際にはλの式式の関係を用いて 224#224 を消去し, 1058#1058, 994#994 とした [*].



Footnotes

... について解説する[*]
本章の内容は Ogura and Takahashi (1971), 浅井 (1983) を参考に した.
... としている[*]
Kessler(1969) では 973#973 をどのように決めたのかについては書かれていない. Gunn and Kinzer(1949) によると, レイノルズ数が 3000 程度である雨粒の 973#973 の値は 0.66 となるので, Kessler(1969) は系の特徴的なレイノルズ数が 3000 程度であると想定して 973#973 の値を決めたのかも知れない.
... 厚さである[*]
蒸発による雨粒の成長方程式 は Kinzer and Gunn(1951) で導出され ている. 導出方法については要確認である.
... とした[*]
Kessler (1969) では最終的には

1059#1059

としている.
Yamashita Tatsuya 2010-04-28