(5)式中の放射加熱(冷却)項 は, 放射伝達方程式を 解いて得られる放射フラックスの収束(発散)により計算される. 考慮する放射過 程は火星大気の主成分である CO による赤外放射の吸収・射出と近赤外波長域 での太陽放射吸収, ダストによる太陽放射と赤外放射の吸収, 散乱, 射出である. CO による散乱は考慮しない.
放射加熱項 は以下のように表される.
(22) |
CO の放射は赤外放射, 太陽放射ともに Goody バンドモデルに従って計算する
(例えば Goody and Young, 1989 を参照). 赤外放射は CO 15 m バンドの
寄与だけを計算する. 大気中における上向き, および下向き赤外放射
, それによる放射加熱
は以下の式から計算される.
ここで は吸収線強度, は吸収強度と吸収線幅との 積の平方根, はその基準値, は有効光路長, は基準 圧力(1013 hPa)である.
近赤外太陽光の CO による吸収は, CO の 4.3 m, 2.7
m, 2.0m バンドを考慮する. 当該バンド領域の下向き放射
とその収束による放射加熱 は
で表される. ここで
, は太陽天頂角, は大気上端での入射太陽放射で,
(29) | |||
(30) |
である. ここで は太陽表面温度(5760 K), はステファン ボルツマン定数(5.67 WmK), は火星軌道上 の平均太陽定数(591 Wm), は火星と太陽の平均距離, は その平均値, は全波長で積分された大気上端での入射太陽放射であ る. は季節, 緯度, 時刻によって変化する. と の計算方法の詳細は第5.3節に示す.
波数平均された透過関数は, 赤外放射の場合と同様に計算する. ただし有効光路
長 は
である.
CO の放射モデルにおいて現れるパラメータは, バンドの取り方と各バ ンドでの吸収強度と吸収線幅の値である. バンドの取り方は Savijärvi (1991a) に準じている. 吸収強度と吸収線幅の値は Houghton (1986) の巻末付 録の表にある 220 K の値を使用する. 以下に Houghton (1986) の巻末付 録の表にある 220 K での (cm/(gcm)) と (g) のうち, 本研究で使用したものを再掲した. 15 m バンドは 500 cm から 900 cm まで, 4.3 m バンドは 2200 cm から 2450 cm までをそれぞれ 25 cm で分割する. 2.7 m バンドは 3150 cm から 4100 cm まで, 2.0 m バンドは 4600 cm から 5400 cm までをそれぞれ 100 cm で分割す る.
(cm) | (cm) | ||||
512.5 | 1.952 | 2.870 | 712.5 | 1.232 | 8.387 |
537.5 | 2.785 | 1.215 | 737.5 | 2.042 | 2.852 |
562.5 | 5.495 | 2.404 | 762.5 | 7.278 | 6.239 |
587.5 | 5.331 | 1.958 | 787.5 | 1.337 | 2.765 |
612.5 | 5.196 | 5.804 | 812.5 | 3.974 | 8.897 |
637.5 | 7.778 | 2.084 | 837.5 | 1.280 | 3.198 |
662.5 | 8.746 | 7.594 | 862.5 | 2.501 | 1.506 |
687.5 | 2.600 | 2.635 | 887.5 | 3.937 | 1.446 |
(cm) | (cm) | ||||
2212.5 | 9.504 | 2.866 | 2337.5 | 5.587 | 1.206 |
2237.5 | 2.217 | 3.000 | 2362.5 | 6.819 | 1.182 |
2262.5 | 4.566 | 1.134 | 2387.5 | 1.256 | 8.873 |
2287.5 | 7.965 | 2.011 | 2412.5 | 7.065 | 3.404 |
2312.5 | 1.055 | 5.880 | 2437.5 | 8.522 | 4.236 |
(cm) | (cm) | ||||
3150 | 1.324 | 9.836 | 3650 | 1.543 | 3.245 |
3250 | 7.731 | 4.900 | 3750 | 1.649 | 2.722 |
3350 | 1.232 | 2.952 | 3850 | 1.180 | 9.535 |
3450 | 5.159 | 7.639 | 3950 | 1.464 | 2.601 |
3550 | 4.299 | 1.914 | 4050 | 1.251 | 2.021 |
(cm) | (cm) | ||||
4650 | 2.185 | 1.916 | 5050 | 8.778 | 2.012 |
4750 | 2.040 | 6.475 | 5150 | 8.346 | 1.804 |
4850 | 1.197 | 3.112 | 5250 | 8.518 | 8.474 |
4950 | 4.829 | 5.759 | 5350 | 4.951 | 1.597 |
ダストによる太陽放射, 赤外放射の吸収, 散乱, 射出はともに -Eddington 近似(例えば Liou, 1980 を参照)を用いて計算する. -Eddington 近似は非等方な散乱のある大気放射伝達を計算する場合に よく用いられる方法である. 可視光および赤外光に対するダストの非対称因子は ともに前方散乱を表す 0 から 1 の範囲にある.
ダストによる太陽放射の散光の
上向き放射フラックス
,
下向き放射フラックス
は以下の式で計算される.
境界条件は, 大気上端での下向き放射
が 0,
大気下端での上向き放射
は
( は地表面アルベド) であ
る.
は
それぞれ
と表される.
は -Eddington 近似に伴い修正された光学的厚さ,
一次散乱アルベド, 非対称因子で, それぞれ
である. はも ともとの光学的厚さ, 一次散乱アルベド, 非対称因子である.
ダストによる赤外放射の吸収と散乱, 射出も同様に計算する. ただし太陽直達光
の一次散乱を表す項の代わりに熱輻射項が付く.
境界条件は, 大気上端での下向き放射
が 0,
大気下端での上向き放射
は
である. (33), ()式中のプランク関数
は, バンド内での平均値を
用いる.
ここで は各バンドの上端と下端の波長である.
ダスト放射による放射加熱率は以下の式で計算される.
ここで
は直達太陽放射フラックスで,
(37) |
である.
P>
ダストの質量混合比から光学的厚さを求めるためには, ダストの有効半径
が必要となる.
本モデルではダストの粒径分布として Toon et al. (1977)
で用いられた変形ガンマ関数分布を仮定する.
波数 の光に対する光学的厚さ は, 単位体積あたりの消散
係数
を用いて
(41) |
(42) | |||
(43) |
(44) |
消散断面積を幾何学的断面積で割った値を消散効率(extinction
efficiency )と呼び, これを と表す.
(45) |
同様に散乱効率(scattering efficiency) , 吸収効率
(absorption efficiency) が定義される.
(46) | |||
(47) |
本モデルにおいては, ダストの質量混合比 を既知の物理量としてダストの
光学的厚さを求める. 与えられるパラメータは粒径分布で平均された消散効率と
, 一次散乱アルベド
, 粒径分
布関数 , そのモード半径 と有効半径(断面積加重平
均半径(cross section weighted mean radius) ともいう) , そしてダ
ストの密度 である.
, はそれ
ぞれ
(48) | |||
(49) |
(50) |
ダスト放射の考慮する波長領域と光学パラメータは Forget et al. (1999)のそれに準じている. ただし CO の 15 m バンドと重なる 11.6-20 m バンドは考慮しない. 吸収線が重なる場合の放射伝達の扱いが 多少複雑になるからである. 可視光波長領域バンドと CO 近赤外吸収帯 との吸収線の重なりは無視する. CO によって吸収される太陽放射量は 全太陽放射量の 1% 程度なので, 吸収線の重なりを無視しても放射計算の結果 は変わらないと判断した.
5-11.6 m 赤外吸収バンドの光学的厚さ は 0.67 m における消散係数 を用いて計算された可視光に対 する光学的厚さと, 観測から得られている可視と赤外の光学的厚さの比 を利用して計算する. 20-200 m バン ドの光学的厚さは, と表に示した の比から計算する.
バンド(m) | バンド(cm) | |||
0.1-5 m | 2000-10 | 1.0 | 0.920 | 0.55 |
5-11.6 m | 870-2000 | 0.253 | 0.470 | 0.528 |
20-200 m | 50-500 | 0.166 | 0.370 | 0.362 |
パラメータ | 標準値 | 備考 |
3.04 | Ockert-Bell, et al. (1997) | |
2 | Forget (1998) | |
2.5 m | Pollack et al. (1979) | |
0.4 m | Pollack et al. (1979) |
全波長で積分された大気上端における太陽放射フラックス は, 季節, 緯度, 時刻によって変化する. ここでは季節, 緯度を指定した場合の各時刻にお ける の計算方法を示す.
平均軌道距離上での太陽定数を (Wm), 太陽からの距離を ,
その平均距離を , 太陽天頂角を , 緯度を , 太陽の赤
緯を , 時角(地方時 から ずれたもの, )
を とする. 太陽放射 は
(52) | |||
(53) |
(54) |
大気上端の太陽放射フラックス計算に現れるパラメータの標準設定は以下のよう になっている.
パラメータ | 標準値 | 備考 |
20N | Pollack et al. (1979) | |
100 | 〃 | |
0.093 | 理科年表 2000 年版 | |
25.2 | 〃 | |
110 | Carr (1996) 図1-1 | |
591 Wm | 理科年表 2000 年版 |